ナイフ

 このナイフは私の命を狙っている。私はそれを知っている。そして彼らも――当然のことながら――それを知っている。  私はもう思い出せないくらい前からこの台に縛り付けられている。この忌々(いまいま)しい台に。両手両足は一ミリ...

世界文学ウェハース

「ちぇ、またスメルジャコフかよ!」と少年の一人が言った。僕はコンビニで働いているにもかかわらず(もう四年目になる)、そんなお菓子が発売されていることに今までまったく気付かなかった。  イートインコーナーに近づくと、五人ほ...

空白 2

「空白 1」の続き  ポトリ、ポトリ、とその音は鳴っていた。どこから聞こえるのだろう、と僕は思う。それはこことは違う、どこかずっと遠くの場所で鳴っているように聞こえる。それはただの水なのだろうか? あるいは何かまったく別...

空白 1

「昨日俺はある重要な事実に気付いた」と彼は言った。 「重要な事実?」と僕は言った。 「そうだ」と彼は言って頷(うなず)いた。「非常に重要な事実だ」 「それはつまり・・・どういうことなのかな?」 「それは、だ」と彼は言って...

パンケーキ中毒

 その年私は重度のパンケーキ中毒に苦しめられていた。  寝ても覚めても頭の中にはパンケーキのことしかなかった。白い皿に載せた焼きたてのパンケーキ。バターとメープルシロップの香り・・・。  もちろんカロリーのことを考えて日...

エアダスター

「昨日エアダスターを買った」と彼は言った。 「エアダスター?」」と僕は言った。「なんだそれ?」 「圧縮空気が入っている缶のことだよ」と彼は言った。「パソコンの調子が悪くてさ、それで調べてみたらどうも埃(ほこり)が詰まって...