私は風だ。いつから風だったのか、そしていつまで風のままでいるのか、私自身にも分からない。しかしとにかく私は風なのだし、カラスでもなければイボイノシシでもない。それは――少なくとも私には――幸運なことのように思える。そして...

ドーナッツ泥棒

最近ドーナッツ泥棒が出現しているらしい。地元の新聞でその記事を読んだ。それはこういう記事だ。 『ドーナッツ泥棒現る!』 ここ数日、東京都H市において、ドーナッツ泥棒が出現している。その男は暗闇に潜み――目撃情報から推測し...

接続詞の森

その時僕は接続詞の森を通り抜けようとしていた。固有名詞の丘を登った先にある叔母の家を訪ねるためだ。叔母は最近健康がすぐれず、ベッドに寝たきりになっていた。僕は自分で焼いたバタークッキーを持って、彼女のお見舞いに行くことに...

湖面の月

一 僕はそのとき北海道と共に見渡す限りの草原を歩いていた。北海道は図体こそでかいが、心が広く、おおらかなところがある。細かいことでくよくよしたりはしない。腹いっぱい食べて、ぐっすり眠れば次の日にはけろっとしている。でも僕...