早口言葉の国

「かえるピョピョピョピョ・・・三(み)ピョピョピョコ・・・。ねえ、お母さんこれって難しいね」 「そうだね。もっと頑張って言えるようになろうね」  という親子の会話を聞いた。勤務先の駐車場でのことだ。少年は四歳くらいで、お...

心配屋さん

「いかがですかぁぁ・・・心配の種いかがですかぁぁ・・・。新鮮な心配の種ですよぉぉ・・・。メキシコから直輸入ぅぅ・・・。無農薬で味も抜群。いかがですかぁぁ・・・」  その不思議な売り子の声を聞いたのはある街を散歩していると...

タイムレス

「当時俺は深刻なテレビゲーム中毒に陥っていた」と彼は言った。  それはどんよりと曇った六月の末のことで、僕らは二人とも二十六歳だった。彼は仕事をしておらず、僕は今勤めている会社をあと二週間で退職しようとしていた。もっとも...

マスクマン

 僕は最近いつもマスクを着けている。世間がこんな風なコロナウィルスの騒ぎなのだから、まあ仕方ないといえば仕方ない。接客業だし、お客さんにうつしたり、あるいはうつされたりしても困る。それはそれとして、実は僕の顔もマスクであ...

ミスターピスタチオ

 その日僕はミスターピスタチオと待ち合わせをしていた。駅前の広場にある奇妙なオブジェの前に午後三時、という約束だった。僕は時間の十分前に到着した。いつもいつも時間に正確というわけではないが、誰かを待たすのは気分が悪い。そ...

幽霊

昨日の夜部屋に幽霊が出た。 それは白い死装束のようなものを着た、髪の長い女の幽霊だった。どうして幽霊だと分かったかというと、身体が半分透けていたからだ。まるでクラゲみたいに。僕は仕事終わりに一通り筋トレをして(腕立てと腹...

夜の爪切り

 昨日の夜爪(つめ)を切っていたら、蛇が出てきた。  それは夜十一時くらいのことで、僕はふと手の爪が伸びていることに気付き、パチパチと切り始めた。床に胡坐(あぐら)をかいて、下にティッシュペーパーを敷き、その上にかつて僕...

ウィルス

 時間がウィルスに冒されている、という報道があった。それはいささか奇妙な状況で発せられたニュースだった。記者の名前は公開されていない。あるいは本当は公開されたのかもしれないが、今では削除されてしまっている。空白。空白。 ...

ゴリペイ

「なに? ゴリペイが使えないだと?」 「ええ。申し訳(わけ)ありません。そのようなサービスはうちでは扱っていないんです」  彼はレジの前に並べられた三本入りのバナナ(エクアドル産)と、豆乳バナナスムージーを見つめた。そし...

リンボ(辺獄)より

 夕方の最も仕事が忙しい時間帯に電話が鳴った。 「もしもし。どちら様でしょうか?」 「店長、俺っすよ俺」 「ああ、君か・・・というか今何時だと思っているんだ。本当なら三十分前に来て働いているはずなんだが」 「いや、それが...