こんにちは。マスコットのビギナー君です。
さて、みなさん! ついに五月ですよ! 五月! いやー嬉しいな! うっれしいな!
え? どうしてそんなに喜んでいるのかって? それはポカポカとして暖かいからだし、何よりも五月病が大好きだからです!
え? 五月病が大好きだなんておかしいって?
いやいや。僕はあれが好きでしてね。ずん●● と沈み込む感じ。新しい環境に馴染めない感じ……。
最初はクラス替えがあった小学校三年生のときでした。二年間一緒だったクラスが再編成され、僕はほとんど知らない子ばかりのクラスに入れられたのです。あのときの気持ちといったら……。
もし馬鹿にされたらどうしよう、と思って、言葉の訛りを直す訓練をしました(結局クラスのみんなはごく普通に訛っていたのですが)。筋トレをして、脂肪を減らしました。カッコ良いTシャツをお母さんに買ってもらって、それをさらにカッコ良く見せるために自分でダメージ加工を施しました(要するに穴を開けたのですが)。
僕は最初の授業からやる気全開で、あらゆる授業で真っ先に手を挙げ、分かることも分からないことも答えまくりました。困っている生徒がいたら一直線に駆けつけ、消しゴムを貸してあげたり、保健室までおぶってやったりしました。お笑い芸人の真似をしてみんなを笑わせたりもしました。それらはすべて新しい環境で受け入れられるためだったのです!
しかし無理が祟ったのか、五月になるとなんにもする気が起きなくなってしまいました。風邪をひいて、学校を休みました。そのあと無理矢理登校しましたが、もう以前のような元気はなくなっていました。僕はきっと自分ではない「誰か」のフリをしていたんでしょうね。みんなはちょっと驚いたみたいでしたが、徐々に受け入れてくれました。
僕はあの頃雨粒を見ては「ああ、雨粒になりたい」と考えていたのですが、徐々に徐々に、そのような暗い気持ちから脱することができました。おかげで八月の盆踊り大会では地区優勝することができたのです!
その後五月病は中学生の頃も、高校生の頃も、大学生の頃もやって来たのですが、終わってみると貴重な「何か」を教えてくれたな、と分かるのです。まあ大体張り切り過ぎて、自分以外の「誰か」を演じているときにやって来るのですが。
え? 今はどうなのかって?
へっへ。今は……あ! UFOだ! ほら! あそこ!
ちょっとすみませんね。宇宙人に話があるので!
(全力で走りながら)ちょっと! 宇宙人さん! 待って! 行かないで! ほら!(徐々に小さくなって消える)

さて、ついに五月がやって来ました。鯉のぼりの季節ですね。鯉のぼり●●●● 。いやあ。あれはなかなか素晴らしいものです。風は目に見えないものですが、あれがあるおかげで、「あ、風が吹いているな」と我々は認識できるわけなのです。
子供の頃近所に変わったおじさんがいまして、彼は花見は嫌いなのに、鯉のぼりを見ながらその下で酒を飲むのは大好きでした。今思うとちょっと精神的なトラウマがあったのだろうと思いますが(桜の木の下でいじめられたとか)、まあとにかく、一年のうちで鯉のぼりの時期だけは陽気になる、という人でした。
実はそれ以外の時期には気難しくて怖い人、ともっぱらの評判でした。近所で遊んでいる子供たちの野球ボールが敷地に入ると鬼のように怒り、そのゴムの球をノコギリで真っ二つに割ってしまうのでした。あるいはバドミントンの羽根が入ってくると、わざわざ外にカセットコンロを持ち出してきて、鍋でぐつぐつと煮て、子供たちの前で茹で上がったそれを、醤油に付けて食べてしまうのでした。
年老いたお母さんと住んでいて、どうやら独身のようでした。仕事は何をしているのか謎で、深夜に出ていっては、朝に帰ってくるという噂でした。髪の毛はなく、ピカピカに剃り上げていました。
私は五月の始めに、その人が自分の庭で酔っ払っているのを見てしまいました。玄関には鯉のぼりが飾られています。風の強い日で、勢いよくはためいていました。
「おい! 坊主! こっちに来い!」と赤く火照ほて った顔で、彼は言いました。ニコニコと笑っています。
私は恐る恐る庭に入りました。彼はちょっと待ってろと言って、一度家に入り、お菓子とジュースを持って戻ってきました。ジュースはちゃんとグラスに注がれています。
「ほら! 飲め! 甘ったるいジュースだ!」
 私はそれをもらいました。チョコレートやクラッカーも食べました。
「いやあ、俺はこの季節が一番好きでね。ほら、鯉のぼり、いいだろう?」
「うん、カッコいいよ」と私は言いました。
「そうだろ。俺は毎年この季節のためだけに生きてるんだ。桜なんてどうだっていい。盆も正月も嫌いだ。だけど鯉のぼり。いやあ、いいなあ」
「どうして鯉のぼりなの?」と私は聞きましたが、彼は鯉のぼりに夢中で、全然聞いてはいません。
「いやあ、いいなあ。俺は生まれ変わったら鯉のぼりになりたいんだ。風の中を進んで……くぅ! たまらないぜ! ほら、坊主、もっと飲め。そして踊れ! いいか? こうやるんだぞ!」
彼はそう言うと、一人で「鯉のぼり音頭」を踊り始めました。
「うっれしい限りだ鯉のぼりっ! ア、ソレ!
はっかない未来は鯉のぼり! ア、ヨイショ!
無常の世界をおっよいでは! ホイ!
行き着く先は雲の上! カープ!
ヨイ! ヨイ! ヨヨイノヨイ!」
当然私も踊らされました。腕や脚を鯉のぼりのように波うたせて……。
最初は怖かったのですが、だんだん彼と打ち解けてきました。私はそこで彼に人生相談をして、有益な回答を得ました(内容についてはちょっと言えませんが……)。やがて彼の年老いたお母さんも出てきて、一緒に踊りました。暖かくて、光の柔らかな、五月の始めの頃の話です。
その後家に帰る途中、野花を見ました。白い野花でした。なぜかそれを、すごく美しいと感じました。鳥が鳴いていました。名前の知らない鳥でしたが、その声が感動するほど綺麗でした。私はまだ九歳くらいだったのですが、世界の美しさに涙しながら帰りました。家族の顔も神聖に感じられました。まあ翌朝起きてみると、いつも通りに戻っていたのですが。
というのが五月の思い出です。あのおじさんは結局はすぐに元に戻ってしまったのですが、人間というのは奇妙なものだな、と思ったことを覚えています。皆様、心の奥のそのような「奇妙な思い出たち」を大事に持っていてください。それがきっとあなたの心を温めてくれますから。
それでは。お元気で。
 

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