私が私であったとき

私が私であったとき

あなたはあなたではなかった

あなたがあなたであったとき

私は私ではなかった

世界が世界であったとき

闇は光ではなかった

世界が世界であったとき

死は愛ではなかった

青は青で

赤は赤だった

空気は空気で

水は水だった

あらゆるものが

動き続けるこの世界で

あなたがあなたである瞬間は

ほとんどないに等しい

しかし

それはゼロではない

おそらくは

たぶん

夢が夢であったとき

私はゆっくりと呼吸をしていた

本物の空気を

本物の命を

いつからか

何かが変わってしまって

永遠は

永遠ではなくなってしまったの

空が空であったとき

海が海であったとき

山が山であったとき

川が川であったとき

羊がメエーと鳴いていた

私はそれを聞き

同じようにメエーと鳴いた

風が吹いて

一瞬だけ光と闇を混ぜた

そのようにして

不完全な世の中が生まれたのだと

老人は語った

らしい

私が私であったとき

いろんなものはもっとずっと切迫していた

そう、切迫●●していたのだ

それはまるで死がすぐそこに迫っているかのようだった

暗黒の、死

死が死であったとき

私は生を生きていた

それはゆがめられていない本物の生で

私はその記憶の残滓ざんし

どこかに隠し持っているに過ぎない

どこに隠したのか

自分でも

覚えていないのだけれど

また

会うときまで

さよなら

グッバイ

では

また

 

村山亮
1991年宮城県生まれ。好きな都市はボストン。好きな惑星は海王星。好きな海はインド洋です。嫌いなイノシシはイボイノシシで、好きなクジラはシロナガスクジラです。好きな版画家は棟方志功です。どうかよろしくお願いします。

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