短編小説 風の休憩所 Posted on 2023年8月6日 by 村山亮 / 0件のコメント 一羽の鳥が、風の休憩所と呼ばれる場所で、くつろいでいました。 風の休憩所とは、風たちがたくさん集まる場所でして、そこでは一切風が吹いていませんでした。 そこには気持ちの良い雲が浮かんでいて、鳥は、その上に寝転んで、...
短編小説 選挙 Posted on 2023年7月30日 by 村山亮 / 0件のコメント この間選挙があって、いささか変わった候補者を見た。 彼は腹の出ている55歳の男で、現在は無職だ、ということだった。市議会議員選挙に立候補したきっかけは・・・お金が欲しいから。とにかくお金が足りない、というのが彼の主張...
短編小説 夢 Posted on 2023年4月28日 by 村山亮 / 0件のコメント 夢を見た。こんな夢だった。私はたった一人で森の中を歩いている。深い深い森だ。木々がぎっしりと、僅(わず)かな隙間だけを残して生えていて、私はその「僅かな隙間」を縫うように進んでいく。キノコが生えている。攻撃的な棘(とげ)...
短編小説 空白の男 Posted on 2023年4月14日 by 村山亮 / 0件のコメント 私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...
短編小説 忘却装置 Posted on 2023年3月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...
短編小説 モロヘイヤ夫人 Posted on 2022年9月10日 by 村山亮 / 0件のコメント 「モ、モロヘイヤ夫人!」と僕は言った。彼女に会うのは実に30年ぶりのことだった。当時僕はまだ生後六ヶ月くらいの小さな赤ん坊だったのだが、彼女はペースト状にしたモロヘイヤを無理矢理(ミルクに混ぜて、だが)僕に飲ませようとし...
短編小説 二・二六サンタ Posted on 2021年12月4日 by 村山亮 / 0件のコメント 「ああ寒い!」とサンタクロースは言った。「一体なんでよりによってこんな日に、こんな場所で座礁(ざしょう)してしまうんだろうな・・・。きっと地球温暖化のせいだろう。そのせいで時の氷河が溶け出して、わけの分からないところにニ...
短編小説 台風さん Posted on 2021年9月21日 by 村山亮 / 0件のコメント この間台風が家にやって来た。23号だということだった。秋で、気持ちの良い風が吹いていた。たしかに西の空にどんよりとした雲がかかりかけてはいたが、まだ雨の気配はない。それは日曜日の午後3時のことだった。僕は部屋で一人でド...
短編小説 早口言葉の国 Posted on 2021年6月29日 by 村山亮 / 0件のコメント 「かえるピョピョピョピョ・・・三(み)ピョピョピョコ・・・。ねえ、お母さんこれって難しいね」 「そうだね。もっと頑張って言えるようになろうね」 という親子の会話を聞いた。勤務先の駐車場でのことだ。少年は四歳くらいで、お...