短編小説 標識 Posted on 2016年10月13日 by 村山亮 / 0件のコメント 僕の家の前には「40」と書かれた道路標識があった。もちろん制限速度四十キロ以下という意味なのだが、この標識は他の標識とは違ってほとんどの場合律儀に守られた。というのもその道路は完全に直角に折れ曲がっていて、四十キロ以上出...
短編小説 贈り物 Posted on 2016年10月12日 by 村山亮 / 0件のコメント 僕はその年の四月、就職を機に上京して来たのだが、そこでいささか奇妙な出来事に遭遇することになった。その出来事は今では、僕自身の深いところにある何かとしっかり結びついてしまって、どうしても記憶から離れなくなってしまっている...
短編小説 カメラ Posted on 2016年10月8日 by 村山亮 / 0件のコメント ある日火星人がやって来て、僕をカメラに収めてもいいかと尋ねた。僕は火星人というのは八本足のタコみたいな生き物だと思っていたので、彼が我々とほとんど同じ見た目なのを見て驚いた。「良いですよ」と僕は答えた。「僕なんかでよけれ...
短編小説 眼鏡 Posted on 2016年10月7日 by 村山亮 / 0件のコメント 散歩をしている途中で眼鏡を拾った。何ということはないごく普通の眼鏡だ。特におしゃれというわけではないし、かといって時代遅れというわけでもない。いつもだったらそんなもの気にも留とめなかったろう。でもその時僕はひどく疲れてい...
短編小説 少年と蛇 Posted on 2016年10月6日 by 村山亮 / 0件のコメント 彼は孤児だった。誰も彼を助けてはくれないし、彼の方も誰かを助けようとは思わなかった。彼はもう十二歳にはなっていたはずだが、栄養が足りなかったせいで見た目には九歳くらいにしか見えなかった。彼は市場の売り物を盗んだり、ゴミを...
短編小説 水分を摂ること Posted on 2016年10月5日 by 村山亮 / 0件のコメント それは仕事を辞めてすぐの頃だった。僕は大学を卒業したあと大手の銀行に勤めたのだが、一年で仕事を辞めてしまった。銀行そのものに問題があったわけではない。給料も良かった。しかし僕はそこにどのような未来をも見い出すことができな...
短編小説 風 Posted on 2016年10月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 私は風だ。いつから風だったのか、そしていつまで風のままでいるのか、私自身にも分からない。しかしとにかく私は風なのだし、カラスでもなければイボイノシシでもない。それは――少なくとも私には――幸運なことのように思える。そして...
短編小説 ドーナッツ泥棒 Posted on 2016年10月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 最近ドーナッツ泥棒が出現しているらしい。地元の新聞でその記事を読んだ。それはこういう記事だ。 『ドーナッツ泥棒現る!』 ここ数日、東京都H市において、ドーナッツ泥棒が出現している。その男は暗闇に潜み――目撃情報から推測し...
短編小説 接続詞の森 Posted on 2016年10月3日 by 村山亮 / 0件のコメント その時僕は接続詞の森を通り抜けようとしていた。固有名詞の丘を登った先にある叔母の家を訪ねるためだ。叔母は最近健康がすぐれず、ベッドに寝たきりになっていた。僕は自分で焼いたバタークッキーを持って、彼女のお見舞いに行くことに...
短編小説 湖面の月 Posted on 2016年9月30日 by 村山亮 / 0件のコメント 一 僕はそのとき北海道と共に見渡す限りの草原を歩いていた。北海道は図体こそでかいが、心が広く、おおらかなところがある。細かいことでくよくよしたりはしない。腹いっぱい食べて、ぐっすり眠れば次の日にはけろっとしている。でも僕...