こんにちは。マスコットのビギナー君です。
さて、みなさん! 今年もついに十一月がやって来てしまいました。いやあ、速いですね! 一年というのは! 今年の一年は僕の中で最速でしたよ。時速でいうと……ええと、大体80km/hくらいかな。いや、もうちょっとかな。強豪少年野球チームのピッチャーのストレートよりは遅いけど、カーブよりは速いってくらいの速度です。え? 分かりにくいって? まあそう怒らずに。
十一月はなんだか切ないです。それはきっと僕が昔のことを思い出してしまうからでしょうね。小学校一年生のとき、学校に行く途中で、大きな柿の木がありました。それはあるおっかないおじさんの家だったのですが、僕はそれを見るたびによだれを垂らして、そのせいで脱水症状を起こすくらいでした。いやあ、柿が好きだったんだな。あの頃から。
それで、夢にも見るようになったので、ある日思い切って盗みに行くことにしたのです。でも「盗む」という意識はありませんでした。その頃僕はまだ「法律」という概念を知らなくて、果物というものは早く取ったもの勝ちなのだと思っていました。しかしそのためにはおじさんと、おじさんが飼っているおっかないジャーマンシェパードをなんとかしなければなりません。柿の木のそばには高いコンクリート塀があって、そこを乗り越えることは当時の僕の運動能力では不可能でした。しかし正面から回ると犬がいます。さて、どうするのか……。
まだ七歳だった僕は頭が破裂するほど考え、ある作戦を思い付きました。それはまず警察を装っておじさんに電話をかけ、外に犬共々連れ出す、というものでした。いやあ、天才だな。僕は。
僕は公衆電話からおじさんの家に電話をかけ(番号は当時は簡単に調べられました。電話帳に載っていたのですから)、「もしもし警察です」と言いました。
おじさんは驚いたように「え? なぜバレた?」と言いました。
「ええ、もう分かっています。観念して署まで来てください」と僕は言いました。「もちろん犬も連れてね」
「え? 犬のことまで! まいったな……」とおじさんは言いました。正直何のことか分かりませんでしたが、僕はしめしめと思っていました。その後急いでおじさんの家の近くに行き、彼が犬を連れて出ていくのを見届けました。そして堂々と正面から敷地に入り、柿を盗んだのです! まあ僕がジャンプして届く範囲のものだけでしたが。僕はかぶりつきました。しかし! 死ぬほど渋い! それは渋柿だったのです。僕はお母さんがスーパーで買ってくる甘柿しか食べたことがなかったので裏切られたような気持ちになりました。そして泣いて帰りました。
実はその日おじさんがインサイダー取引で逮捕されたことを知りました。警察に自分から自供したらしいです。どうも闇のトレーダーとのやり取りで、犬の「ハアハア」という息遣いを暗号として使っていたらしいです。なんと頭が良いのか! 買います、というときは「ハ・ハ・ハ・ハ」、買わない、というときは「ハアハアハアハア」。売りますというときは「ワン!」という具合に。その能力をもっと別のことに使っていれば、彼は今頃ノーベル平和賞を取っていたはずなのに……。
まあ執行猶予がついてすぐに帰ってきちゃったのですが。とりあえず。

さて、今年もあっという間に十一月がやって来てしまいましたね。一年は本当に速いです。ある意味では残酷ですが……もしきちんとそれを受け入れられたら、次のステージに進めるのではないか、と考えることもあります。そこで何をすることになるのかは分かりませんが。
十一月になると祖母のことを思い出しますね。祖母はスーパーおばあちゃんで、なんでもできる人でした。裁縫も料理もスクワットも、囲碁も将棋もチェスも、ピアノもギターも、インドの民族楽器だって弾くことができました。彼女は間違いなく幼少期の私のヒーローでしたね。私は彼女の後についていつも飛び回っていました。こら、大人しくしなさい、と言われましたが、子供に大人しくするなんて無理です。私はおばあちゃんの真似をして何度もスクワットをやっていましたっけ。
そんなおばあちゃんは十一月になるとよくキノコ採りに出かけました。私もそれに付いていきました。小さい子供がいるというのに、ズンズン進んでいきます。私は置いていかれないように必死に付いていかなければなりませんでした。おばあちゃんはキノコを見つける名人でした。「ほら、ここに、ほら、あそこに」ってな具合です。私はただ言われるままに採っているだけでしたね。
あるとき猪が現れたのですが、彼女はタイミングよくジャンプし、踏みつけて倒してしまいました。そして持っていたナイフで容赦なく喉を突き刺しました。いやあ見事だったな。結構衝撃的な光景でしたが。彼女は解体の場面も全部私に見せました。そして手伝わせました。命を頂くということの意味を教えようとしていたのだと思います。あのときの木の匂い。そして風の音。光……。なんでもないと思えた光景が今はとても大切なもののように感じられます。もちろん帰ってからその肉を頂きましたが、あれより美味しいものは今まで食べたことがないかもしれません。臭みもなかったですしね。おばちゃんはしばらく陸上競技に凝っていて、砲丸投げとか、棒高跳びとかも90代になるまで続けていました。あまりにもすごいので晩年は海外のマスコミが取材に来るほどでした。健康の秘訣を訊ねられて、「恋をすることだ」と答えていました。私は笑ってしまいました。だっていつも男なんてどうしようもないと言っていましたからね。でも本心では誰かに本気で恋をしていたのかもしれませんね。今となっては知る由もないことですが。
それでは、皆様。お元気で。くれぐれも熊や猪には気を付けて。それでは。ごきげんよう。

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