こんにちは。マスコットのビギナー君です。
さて、みなさん! 四月がやって来てしまいました。最も残酷な季節です。はい……。
え? なんで残酷なのかって? それは春だからですよ!
ほかでもないあの匂いが僕は苦手なのです。甘い匂い。花粉の匂い……。
しかし、それを耐え忍んで僕は強くなります。簡単で楽なことばかりやっていたらつまらないですからね。
僕はふんどし一丁になって、森の中に行きます。そして草たちと共に、「春音頭」を踊るのです。そのうちチョウチョが混ざってきます。蜂とか、ハエとか、イモムシとか、そういう奴らも仲間に加わります。
イノシシがやって来たこともあったなあ……。とにかくそうやって僕は自然と一体化し、その中で自分を鍛えるのです。
三日三晩踊り続けたあと、骨と皮ばかりになって自宅に帰ってきます。カップ焼きそばを大量に食べて眠り、目覚めたときには、僕は再生しているのです。新しい僕に、です。皆さんももし元気があったらやってみてくださいね。両腕を上に上げて、ぴょんぴょん飛び跳ねます。そのときに浮かんだ言葉をなんでもいいから大声で叫ぶんです。僕はなぜか去年は「ブロッコリー! ブロッコリー!」と叫んでいましたよ。近所の家の人に通報されましたが、うまく隠れていました。熊さんが匿ってくれたんですね。熊さんは国際政治に詳しくて、僕らは侃侃諤諤の議論を繰り広げたものでした(そのうち取っ組み合いの喧嘩になりましたが、お互いにシェイクスピアが好きだったことが分かり、親友になりました。いやはや)。我々はシェイクスピアのソネットを口ずさみながら、月明かりの中で狂喜乱舞していました。あれが「生きる」ということだよなあ、と僕は思っております。あくまで自己責任でお願いします。日本の官憲はユーモアのセンスに乏しいので。それでは。お元気で!
さて、今年もあっという間に四月がやって来てしまいました。時の流れは残酷なほど速いものですね。我々が生きて、この同じ「時間」を共有できるのは本当に限られた間だけなんだなあ、と改めて感じます。特に春が来て、桜が咲いて、それが散るのを見ていると、じわりと身体に染み入るように、それを実感するのです。
そういえば私が子供の頃住んでいた家の近くにも立派な桜の木がありました。川沿いにあって、花見をするためには前日の夜から場所取りをしていなければなりませんでした。私は当時六歳か、七歳か……とにかくそれくらいで、花見のためなら死んでもいいとさえ思っていました。それでブルーシートを持って、前日の午前二時に場所取りに行ったのです(家族には内緒で)。するとどうでしょう? すでに先客がいました。それは私が最も恐れている近所のガキ大将でした。私よりも年上で、身体も大きく、いつも威張っていました。そいつはブルーシートを広げて、その上で毛布にくるまり、すやすやと寝ていました。「さて、こいつをどうしようか」と私は思いました。その隣に陣取ることもできたのですが、一番の特等席はやはり桜の木の下です。私は勇気を振り絞ってそいつを転がしてみることにしました。起こさないようにちょっとずつちょっとずつ押していくのです。始めはうまくいったのですが、ブルーシートからはみ出る、というところでゴツゴツした地面に当たり、起きてしまいました。そいつはハッと目を開けました。「誰だ?」と彼は言いました。
「神様じゃ」と私はとっさに言いました。木の影に隠れて、姿は見られないようにしながら、です。
「神様?」とそいつは言いました。まだ寝ぼけています。
「そうじゃ、神様じゃ」と私は言いました。「桜の木の下から離れなさい。そうしないと災難が起きるぞよ」
「そんなの嘘だい」とそいつは言いました。目をこすっています。
「何? 神様に逆らうのか?」と私はありったけの威厳を込めて言いました。
「ふん! 嘘だろ。きっと桜の木の裏に隠れているんだ!」。そいつはそう言うと、すっくと起き上がって、こちらにやって来ました。私はとっさに逃げようとしたのですが、太い根っこに引っかかって、転んでしまいました。そいつがやって来る……というときに、誰かが——誰か大人の手のようなものが——私を助け起こしてくれました。何が起きたんだろう、と思っているうちに、私は桜の木の枝に上っていました。高い場所にいます。
「あれ? いないなあ」とそいつは言いました。キョロキョロとあたりを見回しています。周囲には誰もいません。だいぶ心細くなってきたみたいでした。
「当たり前じゃ」と私の上の方で声が聞こえました。これをしゃべっていたのは私ではありません。もしかして本当に神様なのかもしれない、と私は思っていました。「神様の姿は見えないんじゃ。お前はいつも意地悪ばかりしているな。生育過程に問題があったことは認めるが、それじゃあ魂は不毛なままだぞ? 大人になってギャンブルにハマり、酒を飲みまくって人生を無駄にするんじゃ。結婚するが奥さんを殴り、突然逃げられて、あとは孤独な生活を送るんじゃ。飲酒運転で捕まり、警察に抵抗して実刑判決を食らう。家族には見放され、出所したところで行き着く先もない。悲しい人生じゃ。そんな人生を送りたいか?」
「いや……です」とそいつは小さな声で言いました。プルプル震えているのが分かります。
「それならそこからどきなさい。家に帰ってお仏壇にお供え物をして、今日は寝るんじゃ。明日少し離れたところに場所を取りなさい。そこからでも桜は綺麗に見えるのじゃから」
「そうします」とそいつはおとなしくなって言いました。「そうすれば……そんなひどい人生を生きなくていいんですね?」
「もちろんじゃ」と誰かは言いました。「君はウホウホのゴリラ並みに健康になり、ボディビルダーの大会で優勝するぞよ」
「やった!」と彼は言って、ブルーシートを畳まずに引っ張って、そのまま帰っていきました。私はその段階で急に眠気を感じました。瞼が自然に落ちてきて……気付くとすやすやと寝ていました。ハッと目を開けると、桜の木の下、一番の特等席に陣取っていました。きちんとブルーシートも敷いています。家族は翌朝、慌てて私を探しに来て、その場面を発見しました。みんな驚いていました。私は全部自分の手柄にして、村で一番の特等席をゲットしたのです。そのとき飲んだ甘酒の味は今でも忘れられません。
ところであれは神様だったのだろうか? いまだに謎なのですが……。
とにかく、風邪だけはひかないようにしてくださいね。場所取りも大事ですが。それでは。お元気で!