火星人

火星人1:「しかし地球人はさ、あまりにも視野が狭過ぎないか? 本当に目に見えるものだけを見ているんだから」 火星人2:「まあ仕方ないさ。それがホモ・サピエンスだもの。昔からそんな風にできていたんだよ。嫌なら火星に帰ればい...

夢を見た。こんな夢だった。私はたった一人で森の中を歩いている。深い深い森だ。木々がぎっしりと、僅(わず)かな隙間だけを残して生えていて、私はその「僅かな隙間」を縫うように進んでいく。キノコが生えている。攻撃的な棘(とげ)...

新しい世界

僕は新しい世界に生きている 新しい世界にはルールがない 新しい世界には人がいない 新しい世界には風が吹いている 新しい風が 新しい世界には孤独がない 新しい世界には言葉がない 新しい世界には死がある しかしそれは絶望では...

魂を売ること

そのコンビニでは魂を売っていた。小さな瓶に入っていて、青く光り輝いていた。隅の方の棚に置かれていたのだけれど、値段シールが何枚も重ねて貼られていた。おそらくはそれだけの回数、値下げしたのだと思う。今は税込で50円だった。...

空白の男

私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...

忘却装置

「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...

靴紐たちの世界

毎日毎日毎日毎日・・・たくさんの靴紐(くつひも)たちが、結ばれているのです 雨の日も雪の日も、嵐の日も(もちろん快晴の日にだって)靴紐たちは結ばれているのです 彼らは何を考えているのでしょう? 靴の主(ぬし)のことを考え...

新しい夢

新しい夢を見るために、私は今日目覚めてきたのです 新しい響きを辿るために、私は今意識を保っているのです 昨日嗅いだ、排気ガスの臭いが、まだ記憶の扉を、叩いているのです あなたは、今そこにいて、何を見ているのでしょうか? ...