王様:ああ裸って楽しいな! うっきうきしちゃうな。ルンルンルン・・・。
従僕アレクセイ:あ! 王様! また裸になって! ちょっと油断するとこうなんだから、もう・・・。
王様:お、アレクセイ! 君も来たか。どうしたんだこんなクソ暑いのに服なんか着て。さっき服を着なくてもいいという法律を出したところだったんだよ。だから脱げ脱げ。
アレクセイ:王様! ここ最近暑さで頭がどうかしたんですか? あなたの命令なんてとっくに誰も聞かなくなっていますよ。王様は頭がおかしくなったんだ、ともっぱらの噂です。
王様:なにを! 失礼な! 私はあくまで秘められていた自分自身を解放しただけだ! これまでずっと抑え込んできたんだ。
アレクセイ:これまでだってだいぶ奔放だった気が・・・。
王様:ん? なんか言ったか?
アレクセイ:いや、なんでも・・・。
王様:とにかく、そういった噂があるということは、街に反乱分子が満ちているということだな?
アレクセイ:というかあなたの息子様が・・・。
王様:え? 息子が?
アレクセイ:ええ、そうです。息子様がこう言っておられました。もう親父は駄目だ。これから離島にでも行ってもらって、そこで一生裸踊りをしていてもらおう。下僕を一人つけてな。残った我々でもっとまともな国に戻すんだ、と。
王様:(ショックを受けて)なんと! そんなことがよく言えたもんだ! 子どもの頃にゲームボーイアドバンスを買ってやった恩を忘れたというのか! ポケモンのレベル上げもやってやったじゃないか! それを離島にだなんて!
アレクセイ:しかし国民の大半は息子様に同調しておられますぞ。
王様:アレクセイ! こうなったらもう、この最後の一枚のパンツまでも脱いで、本当の裸になろう! そして国民に見せつけてやるのだ。真の自由とは何なのかを!
アレクセイ:王様。そんなことをしたら、より事態が悪くなるだけです。ちゃんと服を着て、公務に当たってください!
王様:でも公務ってさ・・・めちゃ退屈なんだよね。私ってそもそも威厳とか似合わないし・・・。ずっとクラシックを聴いてきたけどさ、本当はヒップホップの方が好きなんだ(Yoh! Yoh!)。そう、私はずっと自分を偽って生きてきたのさ!
アレクセイ:じゃあどうしますか? 急いでなんとかしないと・・・。今日にも反乱が起きるという噂が。
王様:それならそれでいいじゃないか? 私たちは今日までの命だったということだ。最後くらい生まれたままの姿で踊ったっていいじゃないか? (そこで最後に一枚残った白いブリーフを脱ごうとする)
そこに刺客が現れる。
刺客:おい! 頭のおかしい王様はどこだ?
アレクセイ:なんと無礼な! 王様は頭がおかしくなんかない! ただちょっと・・・ちょっと開放的になり過ぎているだけだ!
刺客:結局は一緒さ。俺はあんたの息子に雇われてきたんだ。そして王様を殺すように頼まれてきた。国民には病気で死んだんだと伝えるつもりだ。お腹が冷えて、突然ぽっくりと逝っちまったんだと。まあありそうな状況ではあるな。
王様:なにを! 失礼な! 私のお腹は冷えてなんかいない! ちょっと触ってみろ!
刺客:あ! ほんとだ! ポカポカして、あったかい・・・。田舎のおふくろを思い出すなあ・・・。
アレクセイ:(独白)この刺客、意外に抜けているのかもしれないぞ・・・。なあ、おい、ずんだ餅食べるか?
刺客:ずんだ餅? どうして俺の大好物を・・・。
アレクセイ:いや、王様のおやつとして取っておいたものを分けてやるだけさ。ほら、全部やるからさ、ちょっと気を変えてくれないか?
刺客:(餅を食べながら)モグモグ・・・。これは美味いずんだ餅だ・・・。しょっぱすぎず、甘すぎず・・・。もち米も良いものを使っているな・・・。モグモグ・・・。え? 気を変えろって? それは駄目な相談だ。俺はもうなにもかもに絶望した男なんだ。金のためならなんでもやる。王様の息子はかなりの額を用意してくれた。それをもらわないことにゃあ、帰れないね。
アレクセイ:お前も馬鹿だなあ・・・。この仕事をやり遂げて、王様と私を殺して部屋を出たらどうなると思う? 今度は別の刺客に殺されるのさ。そんなの決まっているじゃないか? それでお前一人がスケープゴートにされる。都合の良い駒というわけだ。それもほとんど感情を持たない駒だ。なあ、恋人はいないのか?
刺客:いたけど別れたね。というか逃げたんだ。ぶん殴ってやったんでね。
アレクセイ:まったく、どうしようもない男だな。歳はいくつだ?
刺客:忘れたね。
アレクセイ:両親はまだ生きているのか?
刺客:そんなの知らんね。
アレクセイ:何を楽しみにして日々生きているんだ?
刺客:他人の裏をかくことだよ。ヒッヒッヒ・・・。
アレクセイ:憐れな男だ。こんなにまで道徳的にすさんでしまうなんて・・・。ただお前が殺されるのはほとんど自明のことだぞ。そう決まっているのだ。刺客の運命なんて。
刺客:(ずんだ餅を食べ終えて)じゃあどうしたらいい?
王様:私と一緒に踊るのだ! (そこでパンツも脱ぐ)
アレクセイ:王様! ついに! 最後の一枚を・・・。ああ、これで世界も終わった・・・。
刺客:でもたしかにあの王様の姿を見ていると・・・心の中の純粋な部分が・・・。
王様:お前も脱いで、真の自分自身を解放するのだ! 心の穴はずんだ餅で塞げ! それが人生の真理だ!
刺客:どうせ死ぬなら、踊った方がましだ、というわけか・・・。やれやれ。今まで一体何のために生きていたのだろう・・・。
アレクセイ:(突然服を脱ぎ出して)私も踊りたくなってきた! もうあれこれ考えるのはやめだ! 私は疲れた! 私は疲れたぞ!
王様:おう、いいなあ! その意気だ! 行け! アレクセイ!
アレクセイ:(奇妙なロボットダンスをしながら)ワッタシッハ、ツッカレッタ! ワッタシッハ、ツッカレッタ! ホウホウ! ホウホウ!
刺客:(服を脱いで)ホウホウ! ホウホウ!
王様:ホウホウ! ホウホウ!
そこに民衆がなだれ込んでくる。彼らは鍬や犂を手にしている。みな怒りの形相を浮かべている。
民衆:おい! 王様はどこだ! 国民から税金ばかり絞り取って、自分は贅沢な暮しをしている王様は!
王様:ホウホウ!
アレクセイ:ホウホウ!
刺客:ホウホウ!
民衆:(呆気にとられて)あれ? ここは王様の部屋だと思ったのにな・・・。いるのは頭のおかしい三人の男だけだ。全員素っ裸で・・・。なあ、おい、そこの太っちょ(と言って王様を指差す)。この国の王様はどこだ?
王様:ホウホウ! ホウホウ!
民衆:もう何を言っても無駄だ! ほかの部屋を探すぞ!(そして出ていく)
アレクセイ:(静かになった部屋で)なんとか一命を取りとめたぞ・・・。まったく。なあ、これからどうする?
王様:ホウホウ! ホウホウ!
刺客:もうこの国にはいられないな。なあ、俺に良い考えがある。こんな場所王様の息子に譲って、俺たちは離島で死ぬまで踊り明かすんだ。ずんだ餅を食ってさ。
王様:ホウホウ! ホウホウ!
アレクセイ:結局それがいいのかもしれない。王様のためにも・・・。
王様:大事なのはさ、楽しむことなんだ。みんなしかめっつらをして、金の勘定ばかりしている。息子も変わってしまった。きっと嫁さんがいけなかったんだな。美人ではあるが、中身のない女だった。私は人々に時の価値を教えたいんだ・・・。ホウホウ! ホウホウ!
アレクセイ:こう見えて王様はそんなに馬鹿じゃない、ってことだな。だとすると、まだ望みもあるかもしれない・・・。王様! 実はタヒチに結構良いコンドミニアムがありまして・・・。
王様:近藤ミニアム? 誰だそれは? 私の親戚か?
アレクセイ:いや、そうじゃなくて・・・。そこで我々三人で数年暮らしましょう。そしてこの国がずんと沈み込んでいるところに、陽気な音楽と共に復帰するんです。あっちで楽器を練習しましょう!
王様:え? 練習は嫌だな・・・。ホウホウ!
アレクセイ:じゃいいや、楽器は。とにかく、あなたの息子はここで社会主義政権を樹立するでしょう。自ら王権を廃止し、私有財産制を根底から覆すはずです。しかしそんな体制は長くは続かない。なぜなら生きていて楽しくないからです。彼らは目に見えるものだけに捉われているんです。大事なのは感情です。その発露です。裸になることです。王様は自らそれを体現している。そこの刺客もまた。
刺客:俺? 俺に何も期待しないでくれよ。なにしろどうしようもない男なんだから。
アレクセイ:いや、お前にもまだ希望はある。なにしろまだ生きているのだから。さあ、タヒチで回復しましょう。今電話してチケット取っておくから。ほら、そろそろ服を着て・・・。
王様:ホウホウ! ホウホウ!
さて、彼らの国がどうなるのかは、誰にも分かりません。そもそも一体どこにある国なんでしょうね・・・。ちなみにGDPはアメリカの二倍あるそうです。何でそんなに稼いだんだか・・・。以上、現地からリポートでした。
王様:ホウホウ!