違和感

 違和感は知らぬ間に僕の部屋に住み着いている。いつだってそうなのだ。僕が呼んだわけでもないし、どうしても来なければならない必然性もない。しかしいつもいるのだ。そして僕の邪魔をする。 「そう、毎日ダラダラしてつまらなくない...

カバ山さん

 カバ山(やま)さんは僕の会社の上司で、いつも笑っている。あまりにも大きく口を開けて笑うので、顎(あご)が外れてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。でも少なくとも僕の知る限りにおいては、彼の顎は外れたことがない。二、三...

片側坊主

片側坊主:おおっ! これは! 片方だけの手袋。しめしめ。これはお宝だぞ。見たところ子供のもののようだ。(チラチラと左右を見る)。大丈夫、大丈夫。誰も見ってませんっと。(拾い上げて麻の袋に入れる) 片側刑事(デカ):お前!...

風の休憩所

 一羽の鳥が、風の休憩所と呼ばれる場所で、くつろいでいました。  風の休憩所とは、風たちがたくさん集まる場所でして、そこでは一切風が吹いていませんでした。  そこには気持ちの良い雲が浮かんでいて、鳥は、その上に寝転んで、...

選挙

 この間選挙があって、いささか変わった候補者を見た。  彼は腹の出ている55歳の男で、現在は無職だ、ということだった。市議会議員選挙に立候補したきっかけは・・・お金が欲しいから。とにかくお金が足りない、というのが彼の主張...

夢を見た。こんな夢だった。私はたった一人で森の中を歩いている。深い深い森だ。木々がぎっしりと、僅(わず)かな隙間だけを残して生えていて、私はその「僅かな隙間」を縫うように進んでいく。キノコが生えている。攻撃的な棘(とげ)...

空白の男

私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...

忘却装置

「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...

モロヘイヤ夫人

「モ、モロヘイヤ夫人!」と僕は言った。彼女に会うのは実に30年ぶりのことだった。当時僕はまだ生後六ヶ月くらいの小さな赤ん坊だったのだが、彼女はペースト状にしたモロヘイヤを無理矢理(ミルクに混ぜて、だが)僕に飲ませようとし...

二・二六サンタ

「ああ寒い!」とサンタクロースは言った。「一体なんでよりによってこんな日に、こんな場所で座礁(ざしょう)してしまうんだろうな・・・。きっと地球温暖化のせいだろう。そのせいで時の氷河が溶け出して、わけの分からないところにニ...