落とし物

東京都郊外の街の、駅近くの交番。午後8時15分。カウンターの奥に40代前半くらいの男の警察官が、疲れた顔をして座っている。彼は書類を見つめ、何やら書き込んでいる。奥の方で別の警察官が歩いている音が聞こえる。そこに突然、2...

年齢確認

 僕はコンビニでバイトをしているのだが、昨日こんな客が来た。 「えっと、あのう……63番のタバコを、一つ……」 「あの、身分証明書はお持ちですか?」 「え? 俺?」と彼はひどく驚いたように言った。「いや、持ってねえっすよ...

違和感

 違和感は知らぬ間に僕の部屋に住み着いている。いつだってそうなのだ。僕が呼んだわけでもないし、どうしても来なければならない必然性もない。しかしいつもいるのだ。そして僕の邪魔をする。 「そう、毎日ダラダラしてつまらなくない...

カバ山さん

 カバ山(やま)さんは僕の会社の上司で、いつも笑っている。あまりにも大きく口を開けて笑うので、顎(あご)が外れてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。でも少なくとも僕の知る限りにおいては、彼の顎は外れたことがない。二、三...

容器 (2)

『容器 (1)』の続き 二  Tが入院した、というメールが来たのは、それからほぼ三ヶ月後の、十二月の半ばのことだった。アルバイトが終わって、夜十時半にアパートに帰り、それが届いていることに気付いた。知らない番号からのもの...

容器 (1)

一  測量師の木(き)村(むら)和(かず)彦(ひこ)は仕事を辞めた。特に仕事内容に不満があったわけではない。給料は高くはなかったが、安定していたし、そのまま勤めていればいずれ昇給する見込みもあった。しかし同じ会社の上司た...

片側坊主

片側坊主:おおっ! これは! 片方だけの手袋。しめしめ。これはお宝だぞ。見たところ子供のもののようだ。(チラチラと左右を見る)。大丈夫、大丈夫。誰も見ってませんっと。(拾い上げて麻の袋に入れる) 片側刑事(デカ):お前!...

風の休憩所

 一羽の鳥が、風の休憩所と呼ばれる場所で、くつろいでいました。  風の休憩所とは、風たちがたくさん集まる場所でして、そこでは一切風が吹いていませんでした。  そこには気持ちの良い雲が浮かんでいて、鳥は、その上に寝転んで、...