短編小説 容器 (2) Posted on 2024年6月9日 by 村山亮 / 2件のコメント 『容器 (1)』の続き 二 Tが入院した、というメールが来たのは、それからほぼ三ヶ月後の、十二月の半ばのことだった。アルバイトが終わって、夜十時半にアパートに帰り、それが届いていることに気付いた。知らない番号からのもの...
短編小説 容器 (1) Posted on 2024年6月9日 by 村山亮 / 0件のコメント 一 測量師の木(き)村(むら)和(かず)彦(ひこ)は仕事を辞めた。特に仕事内容に不満があったわけではない。給料は高くはなかったが、安定していたし、そのまま勤めていればいずれ昇給する見込みもあった。しかし同じ会社の上司た...
短編小説/雑記 片側坊主 Posted on 2024年2月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 片側坊主:おおっ! これは! 片方だけの手袋。しめしめ。これはお宝だぞ。見たところ子供のもののようだ。(チラチラと左右を見る)。大丈夫、大丈夫。誰も見ってませんっと。(拾い上げて麻の袋に入れる) 片側刑事(デカ):お前!...
短編小説 風の休憩所 Posted on 2023年8月6日 by 村山亮 / 0件のコメント 一羽の鳥が、風の休憩所と呼ばれる場所で、くつろいでいました。 風の休憩所とは、風たちがたくさん集まる場所でして、そこでは一切風が吹いていませんでした。 そこには気持ちの良い雲が浮かんでいて、鳥は、その上に寝転んで、...
短編小説 選挙 Posted on 2023年7月30日 by 村山亮 / 0件のコメント この間選挙があって、いささか変わった候補者を見た。 彼は腹の出ている55歳の男で、現在は無職だ、ということだった。市議会議員選挙に立候補したきっかけは・・・お金が欲しいから。とにかくお金が足りない、というのが彼の主張...
短編小説 夢 Posted on 2023年4月28日 by 村山亮 / 0件のコメント 夢を見た。こんな夢だった。私はたった一人で森の中を歩いている。深い深い森だ。木々がぎっしりと、僅(わず)かな隙間だけを残して生えていて、私はその「僅かな隙間」を縫うように進んでいく。キノコが生えている。攻撃的な棘(とげ)...
短編小説 魂を売ること Posted on 2023年4月20日 by 村山亮 / 0件のコメント そのコンビニでは魂を売っていた。小さな瓶に入っていて、青く光り輝いていた。隅の方の棚に置かれていたのだけれど、値段シールが何枚も重ねて貼られていた。おそらくはそれだけの回数、値下げしたのだと思う。今は税込で50円だった。...
短編小説 空白の男 Posted on 2023年4月14日 by 村山亮 / 0件のコメント 私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...
短編小説 忘却装置 Posted on 2023年3月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...
短編小説 モロヘイヤ夫人 Posted on 2022年9月10日 by 村山亮 / 0件のコメント 「モ、モロヘイヤ夫人!」と僕は言った。彼女に会うのは実に30年ぶりのことだった。当時僕はまだ生後六ヶ月くらいの小さな赤ん坊だったのだが、彼女はペースト状にしたモロヘイヤを無理矢理(ミルクに混ぜて、だが)僕に飲ませようとし...