ゴリペイ

「なに? ゴリペイが使えないだと?」 「ええ。申し訳(わけ)ありません。そのようなサービスはうちでは扱っていないんです」  彼はレジの前に並べられた三本入りのバナナ(エクアドル産)と、豆乳バナナスムージーを見つめた。そし...

リンボ(辺獄)より

 夕方の最も仕事が忙しい時間帯に電話が鳴った。 「もしもし。どちら様でしょうか?」 「店長、俺っすよ俺」 「ああ、君か・・・というか今何時だと思っているんだ。本当なら三十分前に来て働いているはずなんだが」 「いや、それが...

ナイフ

 このナイフは私の命を狙っている。私はそれを知っている。そして彼らも――当然のことながら――それを知っている。  私はもう思い出せないくらい前からこの台に縛り付けられている。この忌々(いまいま)しい台に。両手両足は一ミリ...

世界文学ウェハース

「ちぇ、またスメルジャコフかよ!」と少年の一人が言った。僕はコンビニで働いているにもかかわらず(もう四年目になる)、そんなお菓子が発売されていることに今までまったく気付かなかった。  イートインコーナーに近づくと、五人ほ...

空白 2

「空白 1」の続き  ポトリ、ポトリ、とその音は鳴っていた。どこから聞こえるのだろう、と僕は思う。それはこことは違う、どこかずっと遠くの場所で鳴っているように聞こえる。それはただの水なのだろうか? あるいは何かまったく別...

空白 1

「昨日俺はある重要な事実に気付いた」と彼は言った。 「重要な事実?」と僕は言った。 「そうだ」と彼は言って頷(うなず)いた。「非常に重要な事実だ」 「それはつまり・・・どういうことなのかな?」 「それは、だ」と彼は言って...

パンケーキ中毒

 その年私は重度のパンケーキ中毒に苦しめられていた。  寝ても覚めても頭の中にはパンケーキのことしかなかった。白い皿に載せた焼きたてのパンケーキ。バターとメープルシロップの香り・・・。  もちろんカロリーのことを考えて日...