短編小説/雑記 片側坊主 Posted on 2024年2月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 片側坊主:おおっ! これは! 片方だけの手袋。しめしめ。これはお宝だぞ。見たところ子供のもののようだ。(チラチラと左右を見る)。大丈夫、大丈夫。誰も見ってませんっと。(拾い上げて麻の袋に入れる) 片側刑事(デカ):お前!...
短編小説 風の休憩所 Posted on 2023年8月6日 by 村山亮 / 0件のコメント 一羽の鳥が、風の休憩所と呼ばれる場所で、くつろいでいました。 風の休憩所とは、風たちがたくさん集まる場所でして、そこでは一切風が吹いていませんでした。 そこには気持ちの良い雲が浮かんでいて、鳥は、その上に寝転んで、...
短編小説 選挙 Posted on 2023年7月30日 by 村山亮 / 0件のコメント この間選挙があって、いささか変わった候補者を見た。 彼は腹の出ている55歳の男で、現在は無職だ、ということだった。市議会議員選挙に立候補したきっかけは・・・お金が欲しいから。とにかくお金が足りない、というのが彼の主張...
短編小説 夢 Posted on 2023年4月28日 by 村山亮 / 0件のコメント 夢を見た。こんな夢だった。私はたった一人で森の中を歩いている。深い深い森だ。木々がぎっしりと、僅(わず)かな隙間だけを残して生えていて、私はその「僅かな隙間」を縫うように進んでいく。キノコが生えている。攻撃的な棘(とげ)...
短編小説 魂を売ること Posted on 2023年4月20日 by 村山亮 / 0件のコメント そのコンビニでは魂を売っていた。小さな瓶に入っていて、青く光り輝いていた。隅の方の棚に置かれていたのだけれど、値段シールが何枚も重ねて貼られていた。おそらくはそれだけの回数、値下げしたのだと思う。今は税込で50円だった。...
短編小説 空白の男 Posted on 2023年4月14日 by 村山亮 / 0件のコメント 私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...
短編小説 忘却装置 Posted on 2023年3月5日 by 村山亮 / 0件のコメント 「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...
短編小説 モロヘイヤ夫人 Posted on 2022年9月10日 by 村山亮 / 0件のコメント 「モ、モロヘイヤ夫人!」と僕は言った。彼女に会うのは実に30年ぶりのことだった。当時僕はまだ生後六ヶ月くらいの小さな赤ん坊だったのだが、彼女はペースト状にしたモロヘイヤを無理矢理(ミルクに混ぜて、だが)僕に飲ませようとし...
短編小説 梅雨寒刑事 Posted on 2022年6月10日 by 村山亮 / 0件のコメント 「やあ、私は梅雨(つゆ)寒(ざむ)刑事(デカ)だ。お察しの通り」とその男は言った。がっしりした体格の、五十前後の男だった。警視庁の制服を着ていたが・・・僕にはどうしても彼が本物の警察官には見えなかった。というのも・・・あ...
短編小説 二・二六サンタ Posted on 2021年12月4日 by 村山亮 / 0件のコメント 「ああ寒い!」とサンタクロースは言った。「一体なんでよりによってこんな日に、こんな場所で座礁(ざしょう)してしまうんだろうな・・・。きっと地球温暖化のせいだろう。そのせいで時の氷河が溶け出して、わけの分からないところにニ...