靴紐たちの世界

毎日毎日毎日毎日・・・たくさんの靴紐くつひもたちが、結ばれているのです

雨の日も雪の日も、嵐の日も(もちろん快晴の日にだって)靴紐たちは結ばれているのです

彼らは何を考えているのでしょう?

靴のぬしのことを考えているのでしょうか?

それとも・・・何か別のこと?

フェルマーの最終定理とか・・・

靴紐たちは全世界で毎日結ばれています

何十億足もの靴たちが靴紐を持っているからです

右と左

左と右

それは田舎かもしれない

それは都会かもしれない

それは・・・どこか別の場所かもしれない(あるいは夢の中とかね)

それでも靴紐は靴紐です

それ以外の何者でもない

時々、僕は思うのですが、靴紐としての人生というのも悪くはないのかな、と

歩いて、歩いて、歩きます

実は靴の上に乗っかっているだけですが、いろんなところに行けます

時に泥を吸い

時に雨を吸い

時に油を吸い

時に葉緑素をくっつけ

あるいはペンキを浴びて

それでも歩いていくのです

どこかに向けて

あなたは今日何を考えて靴紐を結んだのでしょうか?

あるいは全然結ばなかったのでしょうか(ほどくのは面倒くさいしね)

それでもなお靴紐たちの連合は存在しています

全世界の靴紐たちが秘密の経路を伝って、連絡を取り合っているのです

今日ここに行った

今日俺は絶望を背負わされた

今日私は希望を抱いて外に行った

俺は恋人に会えなかった

私は恋人と別れてきた

ただ買い物に行った

母親の葬式に行った

エトセトラ、エトセトラ・・・

靴紐たちの世界にあっては、終わりは始まりとつながっています

そう、いるのです

それは決して、分断されることはありません

なぜか?

それは・・・彼らが「つなぐもの」だからです

分断することは彼らのアイデンティティーには含まれていないのです

あちらとこちらをつなぐこと

孤独と孤独をつなぐこと・・・

たくさんの感情たちが、靴紐の上に乗り移ってきます

退屈な仕事

退屈な日常

嫌な人に会わなければならない

今日は昨日と同じように・・・見える

でもそれは錯覚です

靴紐たちはそれをちゃんと知っているのです

靴紐語で、彼らは語りかけてきます

耳を澄ませば、ちゃんとそれが聞こえるはずです

ほら、今も・・・

あいつらは今日も歩き回っている、と彼らは言っています

でも君は・・・一人きりだ

一人きりの人生を生きているのさ

でも俺がいるぜ

俺が毎日あんたをどこかにつないでいるんだぜ

だから心配しなくていい

孤独だけど

孤独じゃない

さあ歩き出そうじゃないか

どこかに向けて

あなたは顔を上げて、どこかに向かって歩いて行きます

雨が降っているかも

でも心配要りません

靴紐たちはちょっと濡れたくらいではへこたれたりはしませんから

彼らはあなたのつながりを保証しています

どこかとのつながり

夢の世界とのつながり

そのうち道端に

忘れ去っていたはずの「憧れ」を見いだすかもしれません

そのときは靴紐がビビビと電波を発して教えてくれるはずです

だから顔を落とさないで

前を向いて

きちんと歩いていってくださいね

それがこの詩の骨子です

それでは

村山亮
1991年宮城県生まれ。好きな都市はボストン。好きな惑星は海王星。好きな海はインド洋です。嫌いなイノシシはイボイノシシで、好きなクジラはシロナガスクジラです。好きな版画家は棟方志功です。どうかよろしくお願いします。

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