僕は新しい世界に生きている
新しい世界にはルールがない
新しい世界には人がいない
新しい世界には風が吹いている
新しい風が
新しい世界には孤独がない
新しい世界には言葉がない
新しい世界には死がある
しかしそれは絶望ではない
新しい世界には海がある
でもそれは目に見えない海で
音も立てない
しかし確実に存在している
新しい人間にだけそれが見える
海の底には魚たちがいる
海の底には死者たちがいる
イソギンチャクもいる
クジラもいる
象もいる
かつてあなたが発しなかった言葉の切れ端もいる
新しい世界は空白に近い
でもそれはそう見える、というだけのことであって
本当はただの空白ではない
新しい世界には時間がない
でもそれを生きるあなたには時間が宿っている
チクタクチクタクと流れ続ける時間が
新しい世界には愛がない
でも同時に憎しみも存在しない
存在するのはあなただけ
あなたが愛し、憎む
それは世界ではない
新しい世界は全体であり、部分である
新しい世界は極小であり、極大である
新しい世界は南極であり、北極でもある
新しい世界は形を持たない
しかしそれを生きるあなたには形があるように、見える
一見
あなたを見ているのは誰なのか？
あなたを見ているのは神なのか？
いいえ
私は知っています
それは新しい世界なのです
目に見えないけれど
いつもそこにある、世界・・・
新しい世界は呼吸です
新しい世界は鼓動です
新しい世界は花です
そしてそれに群がる虫たちでもあります
真実とは死のすぐそばに存在していると昔誰かが言いました
それは間違ってはいないのですが
大事なことを忘れています
真実とは何よりもまず新しい世界のことなのです
それについて私に訊ねたりしないでくださいね
なぜなら私もまた
新しい世界の一部なのだから
僕は会話をやめる
この世に戻ってくる
見えるのは変わり映えのない景色
いつもの自分
いつもの世界
いつもの音
いつもの匂い・・・
でも本当は違っている
本当はここはいつもの世界ではない
本当はここは・・・
ドクン、と心臓の鼓動が鳴った
どこか、非常に深い場所で
