日曜日の午後
殺された兵士の亡霊がドアを叩く
僕は昼寝から目を覚まし
彼のところに行く
もしもし
と彼は言う
私の記憶はどこに埋もれているんでしょう?
そんなことは分からない
と僕は言う
でもたぶんきっとここじゃないですよ、と
彼は頭を掻く
おかしいな
大体この辺だったと思うのだけれど
誰がそう言ったんです
と僕は訊く
誰ってわけでもないんですがね
と彼は言う
この辺に来るとこう
親指が疼くんですよ
親指が疼く
と僕は言う
それは変だな
それは変ですよね
と彼は言う
僕らは黙り込む
コーヒーでも飲みますか
と僕は訊く
いや、結構
と彼は言う
なんにも飲みたくないんです
もうなんにも身体に入れたくないんです
あなたは人を殺した?
と僕は訊く
ええもちろん
と彼は言う
なにしろ兵士ですから
何人?
と僕は訊く
そんなのいちいち覚えちゃいません
と彼は言う
十人は下らないな
でもあなた自身も殺された
と僕は言う
ええそうです
と彼は言う
私自身も殺された
ほとんど何の意味もなくね
ねえここは
と僕は訊く
本当はどこなんだろう?
さっきからそれを考えていたんです
ここか
と彼は言う
正直なところ
私にもよく分かりませんね
僕らは再び黙り込む
いずれにせよ
と僕は言う
ここにあるのは記憶じゃありません
ここにあるのは孤独だけです
孤独か
と彼は言う
それじゃああまり意味はないな
でも
と僕は訊く
記憶を見つけてどうするんです?
あなたはもう死んでいるんでしょう?
どうするんだっけな
と彼は頭を掻きながら言う
そのことについても記憶にくっついているはずなんだが・・・
ねえ歌を歌いませんか
と僕は言う
歌を?
と彼は言う
どんな歌?
どんな歌でもいいんです
と僕は言う
あなたと僕が出会ったことを祝福するような歌を
彼は考え込んでいる
僕は黙っている
やがて
何かが
やって来て
部屋を埋める
僕はただそれを見ている
それは記憶ではなかった
歌でもなかった
孤独の先にしかない
一筋の
光の
きらめきの
余韻の
ほのめかしの
予感の
子どもの
子どもの
夢
気付くと彼は消えていた
僕は一人で歌の続きを考えている
どこにも行かない歌を
僕一人のためだけの歌を
ずっと