どうも、小松菜たべるです。毎月恒例の「小松菜通信」の時間です。
現在僕は小松菜県小松菜市小松菜1-6-10にある小松菜記念会館に来ています。ここはほうれん草との30年にわたる血で血を洗う「第二次小松菜ほうれん草戦争」の戦勝記念館です。あの頃は辛かった、とよく僕の祖父である小松菜隆は申しておりました。死がすぐ目前にまで迫っていたのだと。結果的に我々は勝利し、食卓における覇権をほうれん草に譲らずに済んだのであります。
さて、今日お越しいただいたのは、この街に住むエンジェル、小松菜ゆでるさん(女・23歳)です。
たべる:どうも、こんにちは!
ゆでる:こんにちは、おにいちゃん。
たべる:いや、いや。そうです。何を隠そう彼女は僕の妹なのです。どうですか、最近は? あなたのクレイジーな魂は、現世に満足していますか?
ゆでる:必ずしもそうとはいい切れないわね。
たべる:どうして? だってこの間も包丁でほうれん草を切り刻んだって言っていたじゃないか。あれだけでは満足できなかったのか?
ゆでる:まあね。あのあとレタスとキャベツも炭火であぶってやったんだけど、それでも気が晴れなかった。一体私の魂はどうしたのかしら・・・
長老:それは、だ。彼女の魂はもっと別なものを欲している、ということなんじゃ。
二人:長老!
長老:はっは。長老だ。なんだか楽しそうだったので来てみたぞ。
たべる:ここで皆さんにご紹介しておきたいのですが、今ここにいらっしゃるのは御年273歳というご高齢の我らが小松菜族の長老です。お名前は何とおっしゃいましたっけ?
長老:名前なんか忘れたぞ。はっはっは。税金も払っておらんし、車を車検に出したこともない。さらにいえば、生まれてから一度もシャンプーをしたことがないぞ。
たべる:なるほど。それが長生きの秘訣なんですね。
長老:そういうことだ。
ゆでる:それで、私の魂は一体何を求めているのかしら?
長老:それは簡単なことだ。あなたはこんな狭いコミュニティーの中で満足できるような人間――というか小松菜――ではないんだ。そんなのは明白なことじゃないか。
たべる:ということは、彼女はここから出なければならない、と?
長老:そういうことだ。彼女はここから出て、あの煩悩に満ちた俗世間へと下りていかなくてはならない。
たべる:そんな! あそこはこの間僕も行ってきたばかりだったんですが、本当にひどいところですよ。至るところで人々がレタスをボリボリと齧っているんです。スーパーでは僕ら小松菜が、なんとほうれん草の隣に並んでいます! パチンコは三千円も使ったのに、全然確変がこないし・・・
ゆでる:私そんなところ行きたくないわよ。
長老:いや、駄目だ。あなたはもっと広い世界を見なければならない。そしてこれが大事なことなのだが、将来の恋人もあちらにいるのだよ。
たべる:どうしてそんなことが分かるんですか?
長老:お告げがあったのじゃ。昨日夢を見て、その中で神様がこう言っておった。『今年のレッドソックスは全然駄目だ』と。『どうしてキンブレルと複数年契約を結ばなかったのか』と。
たべる:それは本当に神様が・・・
長老:いや、間違えた。それは私が常日頃思っていたことだった。神様はこう言ったんじゃ。『時が来た。壁を壊せ』と。
ゆでる:ふうん。でもどうしてそれが私のことだと思ったわけ?
長老:直感があったんじゃ。わしももう250年以上も生き続け、その間ヒットソングを聴き続けてきた。ハイドンから、モーツァルトから、ベートーベン、ブラームス、ワーグナー・・・。しまいにはビースティ・ボーイズまで。ユーガッタファイト!フォーユアライト!トゥパァァァティィィー!
たべる:長老がビースティ・ボーイズを聴くんですか?
長老:わしはなんでも聴くぞ。それが長生きの秘訣じゃ。最近はこれを聴いて踊っている。
たべる:まあそれはそれとして、神様はこう言ったわけですね。『時が来た、壁を壊せ』と。
長老:そうじゃそうじゃ。
ゆでる:それは具体的には何を表すのかしら?
長老:具体的には・・・これだ!!(長老、突然服を脱ぎ始める)
たべる:長老!それはちょっと。これはYou Tubeで中継されているんですから・・・
ゆでる:あ!(ここで両手で顔を覆う)でも手の隙間から大事な部分が・・・
長老:これが私の真の姿だ。さあさあさあ!(そう言って二人に迫る)
たべる:長老!それじゃあただの変態ですよ。威厳も何もあったものじゃない。
ゆでる:手の隙間から大事な部分が見える・・・
たべる:やめろ!そんなもの見るんじゃない!あれはただの幻だ。いいか。君はこんなところにいちゃだめだ。あんな人間が長老をしているところなんて。この小松菜県はもともとベネズエラの植民地だった。そのおかげで我々はスペイン語をしゃべれるわけだが、しかし最近はあの国も変わってしまった。我々はある程度現実に適応しなければならないのかもしれない。
長老:さあさあさあ!
たべる:早く逃げろ!あっちに行ってもしっかりやるんだぞ。あっちの世界にはいろんな奇妙なものがある。でもそれに惑わされちゃいけない。自分というものをきちんと持っていなければならないんだ。
長老:さあさあさあ!
たべる:じいさんは黙ってろ!今大事な話をしているんだから。ゆでる。僕は君の兄としてどうしても言っておきたいことがあるんだ。それは・・・その・・・
ゆでる:その? 何? 一体。
たべる:君の服装のセンスは最低だ! そもそもどうしてジーンズの丈が左右で違っているんだ?
ゆでる:あら、これってでも素敵でしょ? アバンギャルドで。
たべる:あっちでは23歳の女の子は「アバンギャルド」なんて言葉は使わないんだ。それにだね、どうしていつもいつも広岡達朗のユニフォームを着ているんだ?
ゆでる:だって広岡素敵じゃない?
たべる:そして頭にはサンディエゴ・パドレスのキャップをかぶっている。
ゆでる:だってパドレスかわいいじゃない。
たべる:いいかい? あっちの女の子はそんなことはしないんだ。広岡達朗のことなんか知らないし、パドレスのことも知らない。もっとかわいくておしとやかなことをしなければならないんだ。それで、その手首にある髑髏のブレスレットは何なんだ?
ゆでる:これ? これはね、友達のシャーマンからもらったの。魔除けになるんだって。
たべる:いや、これこそが悪魔みたいなもんじゃないか? こっちによこせ(そこでむりやりブレスレットを取ろうとする)。
ゆでる:嫌よ。やめて、お兄ちゃん!
長老:さあさあさあ!
たべる:さあ、これで良い。(ブレスレットついに取れる)こんなもの、あっちでは誰も信用しないぞ。(足で踏みつけて壊してしまう)
ゆでる:ひどい!これは人生で一番気に入っていたものだったのに!もうお兄ちゃんも変態の長老も知らない!私はあっちで一人で好きに生きていくわ。(そう言って駆け出す。そのフォームはウサインボルト並みに綺麗である)
たべる:(彼女の後ろ姿を見ながら)あれはもしかしたら短距離選手として活躍するかもしれないな・・・。
長老:さあさあさあ!
悪魔:魔除けが壊れたからやって来たけど、ここにいるのは全裸の老人と、心ここにあらず、という若者だけだ。まったくつまらないぜ。さっきどこかでパーティがあるって話を聞いたのにな。
長老:ユーガッタファイト!フォーユアライト!トゥパァァァーティィィー!
たべる:うるさい!
ということで、今回の小松菜通信は楽しんでいただけたでしょうか? あのあと妹のゆでるからは一切連絡はきていません。そちらの世界で元気にやっているといいのですが。もしあなたの街で、不思議な服装をした女の子を見つけたら(左右丈の違うジーンズ、広岡達朗の巨人時代のユニフォーム、そしてパドレスのキャップ)、それはもしかしたら妹のゆでるかもしれません。そしたらどうか、優しく接してあげてください。なにしろパドレスが好きなものですから。
ちなみに彼女はスペイン語が堪能で(ボルヘスを原文で貪り読みます)、100メートルを11秒台で走ることができます。そして小松菜料理が得意です。好きな作家はドストエフスキーで、そこに出てくるおじさんたちが「かわいい」ということでした。最も好きなキャラクターはスメルジャコフだそうです。そんな彼女ですが、どうかよろしくお願いいたします。