こんにちは。マスコットのビギナー君です。
さて、みなさん! 今年もついに十月になりました! 十月ですよ! 十月! いやあ早いもんだな。これで今年度の上半期も終わったわけです。僕はといえば……絶好調ですよ! ヒヤッフウゥ! いやあ、人生とはイージーだな。こりゃ。
というのもね、四月に株を買ったからなんですよ。なんと、うちのアパートの玄関までやって来てくれた、奇特なトレーダーがいましてね、これを買って、半年間大事に取っておけば50倍の価値になっていますよって。僕は寝ぼけていたんですが、「本当ですか?」と訊きました。だって嘘だったら困りますからね。彼は確かに僕の目を見て「本当ですよ」と言いましたね。
僕はその言葉を信じて、全財産を下ろして、2万円でその株とやらを買いました。白いコピー用紙に「かぶ」とひらがなで書いてありました。いやあ、世の中不思議ですね。こんなものが50倍の価値になるんだから……。
ピンポン!
あ! もしかしたらあのトレーダーかもしれない。ちょっと待っていてくださいね……。
(戻ってくる)いやあ、興奮しましたよ! 彼は本物だった! だってですよ。これを見てください!
ジャン! 同じような「かぶ」と書かれたコピー用紙が50枚。ちゃんと数えましたからね。僕だって用心深いんだから。本当に50倍の価値になったというわけです。どうだ! まいったか!
でも「換金するのはもっと後にした方がいい」と彼は言っていました。このまま持っていれば、毎年どんどん価値は上がっていくそうです。本当に賢い人間は死ぬ直前まで持っている、と言うんですね。いやあ、あのあと一ヶ月リュックに入っていた誰かのお土産のクッキーを(ボロボロになっていたけど)ちびちびと食べて命をつないだ甲斐があったなあ……。
ということで、僕は株で儲けます。皆さんは……くれぐれも気をつけてくださいね。悪い人たちが狙っていますから。それでは! お元気で!
さて、今年もあっという間に十月がやって来てしまいました。あまりに暑くてもう永遠に来ないのかと思っていましたが……。ちゃんと来ましたね。時間というのは律儀というか、なんというか……。
私も老人になってしまいましたが、この歳になるとよく死のことを考えます。まあたしかに若い頃だって考えてはいたんですが、その切迫性が違ってくるですな。仲間がバタバタと死んでいきますからね。主に病気で、ですが。
私の幼馴染もこの間逝ってしまいました。幼稚園の頃からウェイトトレーニングをしているようなやつで、シークレットサービスに入って大統領の護衛をするのが夢なんだとよく言っていました。そのトレーニングとして、よく私のことを護衛してくれていたっけ。
たとえばあるとき私が年上のガキ大将にいじめられていました。公園の砂場で遊んでいたところ、彼がやって来て「どけ! ここは俺のテリトリーだ!」と言って、私を隅に追いやってしまったのです。私は反撃しようとしたのですが、なにしろ身長、体重共に倍くらいありそうなやつでしたからね。泣く泣く引っ込んで、本当に隅のところで、ただ小さな穴を掘って遊んでいたのです。ああ、人生とは哀しいな、と私は思っていました。すると! 彼がやって来たのです。寒い日だったのに、上半身裸にふんどし、という格好でした。彼は「アチョー!」と叫びながら、そのガキ大将に不意打ちを喰らわせました。首筋に空手チョップを見舞ったのです。しかし全然効いていないみたいでした。ガキ大将はその部分をポリポリと掻きました。でもそれだけです。彼の存在に気付いてすらいません。大人が使うようなでかいシャベルで、どんどん穴を掘り、横に高い山を積み上げていきます。「ああ楽しいな!」と彼は言っていました。
しかしめげずに私の護衛はガキ大将にチョップとキックを見舞い続けていました。そのスピードはあまりにも速かったので、まるでスローモーションで動いているかのように見えました。20分ほど経った頃、ようやく効果が現れてきました。彼はなんだか気持ちよさそうにあくびをし始めたのです。きっと私の友人の攻撃が適度な刺激になって、いわば「マッサージ」の役割を果たしたのでしょう。「なんだか眠いな……」と言うと、その場にガキ大将は寝転んでしまったのです。そのときに勢いで自分が掘った穴の中にスッポリと入り込んでしまいました。私たちは大笑いしました。そして砂を彼の上にかけ、頭以外を埋めてしまいました。頭まで埋めたら死んでしまいますからね。そこまではしなかったわけですが。ということで私たちはガキ大将を封印することに成功したのです。きっと今でもあの砂場に埋まっているんじゃないでしょうか。一度眠るとそう簡単には起きそうにない男でしたからね。あれから80年。いろいろありました。激動の昭和を生きてきました。世間には公表できないようなこともたくさんありましたが……。彼のご冥福を祈ります。今を生きよう。うん。それに尽きる。
ということで、ご機嫌よう。思い出を大事に。でも今も大事に。それでは、また!