小松菜通信 3

小松菜通信 2」の続き

 どうも、みなさん。こんにちは。小松菜たべる(男・28歳・A型)です。ご無沙汰しておりました。今回は小松菜通信の第三回目となります。

 さて、今回僕がこんなマスクをしていますのも、もちろん例の新型コロナウィルスのせいであります。どうも研究によりますと、小松菜に感染した例はない、ということなのですが、まあ何があるか分かりませんからね。一応こうしてマスクを着けている、というわけなんです。

 僕らは基本的に小松菜県に避難していたので、ほとんど日常と変わらない生活を送っていました。朝五時に起きて、乾布かんぷ摩擦をして、スクワットをやって・・・。まあその話はいいでしょう。今日は妹のゆでる(女・24歳・血液型不明)のことが心配で、この東京都郊外のクソつまらない街に・・・いや、ええと、とても素敵なコンクリートに囲まれた街に、やって来たのであります。そういえば交通量が減ったせいか、心持空気が澄んでいるような気がするな・・・。

 ウッホ、ウホウホ、ウッホ、ウホウホ・・・。

 あ、なんか変な声が聞こえてきたぞ。もしかして人々は自粛疲れのせいで、一時的にゴリラになってしまったのかもしれない。その可能性はあり得ると思っていたのだが・・・。

長老:ウホウホ! ゴリゴリ! バナナバナナ! ウホウホ! ゴリゴリ! バナナバナナ!

たべる:なんだ、長老じゃないですか? 一体何をやっているんですか?

長老(男・276歳・血液型「変態」):いや、こういつもいつも部屋の中にいると、変態の血がうずいてな。それを鎮めるためにウホウホゴリラ体操をやっておったのだよ。

たべる:でもそれって、そんな薄いふんどし一丁で・・・。人通りが少ないからいいようなものの、誰かに見られたらきっと通報されますよ。

長老:もう三回くらい通報されたな。ハッハ。でも大丈夫だ。東京の警察なんて屁でもない。私のゴリラスキルを持ってすればだな、パトカーなんてバナナの皮ですってんころりんお陀仏様だ。警棒だって痛くないぞ。なにしろ全身が筋肉に覆われているからな。ダメージなんか与えることはできない。

たべる:そうなんですか? どう見ても骨と皮ばかりの老人にしか見えないんですが。

長老:ハッハ。だから君はまだ未熟なんだ。ものごとは見かけによらないのさ。なあ、それはそれとして一緒にウホウホゴリラ体操をやらないか。そう、そうやって股関節を広げて、両手を腕に上げて・・・

たべる:こうですか?

長老:もっと尻を突き出すんだ! ほら! もっと!

たべる:こんな感じ?

長老:よくなってきた。そこでゴリラになり切るんだ。いけ! 叫べ! 

たべる:ウッホ! ウホウホ! ウッホ! ウホウホ! バナナバナナ! バナナバナナ!

長老:いいぞ! その調子だ! もっといけ! 限界を越えろ!

たべる:たしかに元気が出てきたぞ。忘れていた野性味みたいなものが全身を包み込んでいる。長老もただの変態というわけでもなかったんだな・・・。

長老:何をごちゃごちゃ言っている! ほら、叫べ! お前はゴリラだ。ゴリラの小松菜だ!

たべる:ウッホ! ウホウホ! ゴリラゴリラ! ゴリラゴリラ! (そこで激しくドラミングをする。服はすでに脱ぎ捨てられている)

小松菜ゆでる:ああ、もう! なんか道路の真ん中で変態二人が踊っていると思ったら案の定。ねえ、お兄ちゃん! 長老! やめてよこんなところで!

たべる:(正気を取り戻し)ああ、誰かと思ったらゆでるじゃないか? 何してるんだこんなところで・・・。ああ、いや、我々が君の家の近くにやって来たんだった。そう、それでどんな感じ? コロナヴァイルスにはかかっている? うげ! というかなんだそのマスクは? どうして髑髏(どくろ)がデザインされているんだ? まるで時代遅れの暴走族みたいじゃないか? そんなのやめろ! こっちによこせ!

ゆでる:(さっと身を引いて)やめてよ! 渡さないわよ。これは。これは友達のシャーマンに作ってもらったの。税込みで2,500円。魔除けの意味が込められているのよ。

たべる:魔除けだって? 相変わらず君はそんな非科学的なことを信じているんだな。こっちの大学に編入した割に頭は悪いままじゃないか! そしてファッションセンスも最悪だ。どうじてズボンのたけがいつも左右で違っているんだ?

ゆでる:まったく田舎者なんだから。こっちでは誰も「ズボン」なんて言わないのよ。「パンツ」っていうの。

長老:わしはパンツを履いたことがない!

たべる:いや、長老はいいから・・・。それはそれとして、本当に大丈夫なの? 小松菜はコロナウィルスにかからないらしいという研究結果がインド大学から発表されたけど・・・

ゆでる:まあ今のところは大丈夫だけどね・・・。それよりも周囲の人々の方が心配なの。私の大学の友達も、なんか人が変わっちゃったみたいになって・・・

たべる:どんな風に?

ゆでる:なんか何を話しかけても「ウホ」としか返さなくなっちゃったのよ。差し入れに持っていったお菓子も食べないし。バナナとリンゴしか食べないの。それも皮ごとよ。リンゴは芯まで綺麗に食べる。

たべる:長老。これはもしかして・・・

長老:うむ。その症状はたしかにゴリゴリゴリラシンドロームだ。

ゆでる:なにそのふざけた名前の病気は?

長老:以前戦争中に流行はやったことがある。一種の精神疾患だ。極度のストレスにさらされたとき、人々は現実から目を逸らそうとする。それ自体はまあ珍しいことではないのだが、なおかつ免疫力が低下し、ある種の細菌に感染すると・・・脳がゴリラ化してしまうんだ。恐ろしいことに。

ゆでる:それは治癒の可能性はあるの?

長老:ないわけではない。しかしかなりの荒療治になる。

たべる:それは一体・・・

長老:つまり我々は彼らの人間性を取り戻さなければならないんだ。人々は自分がゴリラなのだと思っている。しかし実際にはゴリラではない。あ! ほら! あそこの街路樹を見てみなさい。太ったおじさんがトランクス一丁で木に登ろうとしている。

たべる:本当だ! 一体何を食べたらあんなみっともない身体になるんだろう・・・。それはそれとして、彼は不可能な木登りを憐れにも何度も試みている・・・。あれはダイエットの一種なのだろうか?

長老:違うんだ。彼は自分がゴリラで、握力は一トンくらいあると思っている。筋肉ムキムキで、雌ゴリラはすぐに自分にメロメロになるのだと思っている。つまり客観的視点を持つことができないんだ。ゴリゴリゴリラシンドロームの特徴的症状だ。

たべる:どうやったら彼を助けてやれるんです?

長老:現実を見せるしかない。百パーセント曇りのない現実を。

ゆでる:でもどうやって? あの人たぶん自分のことをイケメン(イケゴリラ)だと思っているわよ。

長老:それには君の助けが必要とされる。

ゆでる:げ! 一体何をさせられるのかしら・・・

 その後三人はコソコソと作戦を練る。そしてしぶしぶといった顔をして、ゆでるがゴリラの振りをし、例のおじさんのところに近寄っていく。

ゆでる:ウホウホ! ウホウホ! バナナバナナ! (まったく。何でこんなことしなきゃならないのかしら・・・)

おじさん:ウホウホ! ウホウホ! (若い雌ゴリラが来たぞ! 俺にメロメロなんだ!)

ゆでる:ウホウホ! ゴリゴリ! ウホウホ! ゴリゴリ!

おじさん:ウッホウホウホ! バナナバナナ! (はっは! こいつはもう俺のもんだ!)

 おじさんがゆでるに手を伸ばそうとしたとき、彼女は突然背中から手鏡を取り出す。おじさんは一瞬面食らったように目をつぶったが、その後すぐに現実と対面する。そこにいたのはゴリラではなく一人の男だった。人間の男だ。彼は不思議そうな顔をして、そしてあらためて自分の姿を眺めた。彼の理性が戻っていくのが感じ取れる・・・。

おじさん:ああ、いや、参ったな。なんてことだ。私はゴリラではなかった。。うう、危うく勘違いするところだった。まったく。コロナウィルスの自粛疲れのせいで、正気を失いつつあったんだ。妻と子どもに見られたら、一体何と言われるか・・・。ん? 一体そんなところで鏡を持って、娘さん何をしているのかね? もしかして私のこのセクシーな身体に見惚みとれていたとか?

ゆでる:そんなわけないでしょ! 私はあなたのために・・・(そこで近くに隠れていたたべるが口を塞ぐ)

たべる:ええ、僕の妹はどうもあなたのセクシーな身体に見惚みとれていたみたいなんです。でもどうか許してやってください。若気の至りというか・・・

ゆでる(暴れながら):むー! むー!

おじさん(不思議そうな顔をして):どうも個性的な兄妹みたいだ。君の妹さん、ちょっと病院に行った方がいいかもね。ズボンのたけも違っているし・・・。なんだかゴリラみたいじゃないか? まあいいさ。もう私には関係ないから。さあ、今から帰って、たらふくビールを飲まなくちゃならない。このセクシーな身体に磨きをかけるんだよ。今日は唐揚げ何個食べようかな・・・。フンフン♪ フンフン♪(おじさん、そこで去っていく。ものすごく軽快な足取りで)

ゆでる(たべるの手を振り払い):もう、お兄ちゃん! 二度とこんなことやらないからね! あの人ゴリラシンドロームにかかっていなくても、十分自惚うぬぼれているじゃない!

たべる:まあまあ。ちょっと落ち着いて。

長老:よくやったぞ、ゆでる。褒めてやろう。ちなみにあの症状はこうした荒療治のほかにも、三日何もせずに放っておく、という治療法もある。普通はそっちを選択するんだが。

ゆでる:もう! それならそうと言ってよ! なんであんな恥ずかしいことをしなくちゃならなかったのかしら?

長老:それはあなたが人間的に――小松菜的に――成長するためだ。ハッハ。でもよく見るとあのおじさん結構可愛い顔をしておったな。あとで連絡先を訊いておこう。

たべる:長老・・・。僕にはあなたがよく理解できませんよ。それはそうと、先日ナイジェリア人ドラマーのトニー・アレン(Tony Allen)が亡くなったそうです。最近は優れたミュージシャンの訃報が多いみたいですね。

長老:なんだその話の飛び方は。でもまあいいさ。その後Gorillazがすかさずこの動画をアップしたぞ。

ゆでる:それはそれとして、じゃあ私の友達も三日経てば回復するの?

長老:まあ、そういうことにはなる。でもひどい場合、後遺症が残ることもある。

ゆでる:それはどういう?

長老:握力が無駄に強くなる。

ゆでる:あとは?

長老:バナナが無性に食べたくなる。

ゆでる:それだけ?

長老:インド大学の調査によればそれだけだ。ということでそろそろ帰ろうかな・・・

たべる:まあ今回の件はこれで一件落着ということで。でも本当に大事なのはコロナヴァイルスの方だ。ゆでる。気を付けても気を付け過ぎるということはないんだからな。

ゆでる:分かったわよ。もちろん。でもお兄ちゃんはどうなの? コロナ云々うんぬんは別として、あなたの人生は大丈夫なの?

たべる:うぐぅぅ。痛いところを突いてくるな。さすがボルヘスをむさぼり読むだけのことはある。たしかに今回の騒動は別として、僕は僕の人生についてそろそろ真剣に考えなければならなくなっている。ここでゴリラダンスを踊っている場合じゃないんだ。

ゆでる:じゃあ何をするの?

たべる:それは・・・これだあぁぁぁ!(そこで全速力で走り出す。このときにはまたマスクを着けていたので、途中で酸欠でぶっ倒れる。でもまた起き上がり、どこかに向けて走り去っていく)

ゆでる:あれは短距離選手になりたい、ということでよかったのかしら? それにしてはフォームがバラバラね・・・。

長老:いや、そうではなくて、たぶん思考よりも実際に行動に移すことの方が大事だ、ということの身体的表現だったのではないかな?

ゆでる:ふうん。それならそうと言ってくれればいいのに。お兄ちゃんってつくづく変な人なんだから。

 ということで今回の小松菜通信は終わりです。たべる君は一体どこに行ったのでしょうか?(物理的な意味でも、精神的な意味でも)。それはそれとして彼らはとりあえず無事みたいです。小松菜はコロナウィルスに感染しないらしい、という説もたぶん本当みたいです。ゆでるは自粛生活を続け、長老はウホウホゴリラ体操を続けるでしょう(逮捕されない限り)。たべる君は人生を模索する旅に出ようとしているみたいです。風の噂に聞きました。

それではごきげんよう、みなさん。筋トレするときはたんぱく質不足に注意してくださいね。さようなら。

村山亮
1991年宮城県生まれ。好きな都市はボストン。好きな惑星は海王星。好きな海はインド洋です。嫌いなイノシシはイボイノシシで、好きなクジラはシロナガスクジラです。好きな版画家は棟方志功です。どうかよろしくお願いします。

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