大学でたまたまあった知り合いが珍しくスーツ着ていたから今日は何かあるんですか?って聞いたら「別に何もないんですけど,スーツを着る練習をしてるんです.」とか言うもんだから「???」となって冗談かなんかかなと思ったけど割と真面目な顔でかつ「1足す1は2です」というような自然な,ごく当たり前のような雰囲気で答えるもんだから「ああ本当にこの人はスーツを着る練習をしているんだ」とか考えだしたらいよいよおかしくなって笑いそうだったけどとりあえず「そうなんですか.頑張ってくださいね.」とますますカオスを増大させる頓珍漢な言葉を返して非日常的な会話を終了させた.
本当はそこで終了させるんじゃなくて「スーツを着る練習とは何か?」という疑問に答えを出すための質問をするべきだったのだろうと思う.おそらく,彼の言わんとしたことの真意は「近々迫っている就活のためにスーツを着慣れておいている」という事だろう.しかしそうだとしても多くの疑問が残る.第一にあまりにも馬鹿げている.スーツを着ることはそもそも練習が必要な技巧など一切ないと考えるからだ.着慣れないものだとしても家で一度試着してみればすべて事足りるはずだ.となると考えられる可能性としては彼はとても特殊なスーツを着ていたという事だ.ぱっと見はいたって普通のリクルートスーツのようだったけど中に特殊な拘束具でも着けていたのうだろうか?あるいは袖を引っ張ると拳銃やナイフが飛び出してくる武装を施してあるとか?これもあまり現実味のない話だ.
ありそうな理由を思いついた.彼はダメージ加工のジーンズみたいにスーツをクタクタにすり減らしておきたかったのだ.百戦錬磨のサラリーマンのような体で新卒採用の面接に行けば人事や役員に「君のスーツは年季が入っていてすごいね」みたいなことを言われてそこですかさず「ええ,厳しい練習を重ねてきましたから」とでも言えば会場はもう大爆笑.紙吹雪が舞いだしクラッカーの号砲と共にくす玉は割れやんややんやの大喝采,スタンディングオベーションからの金メダル授与と胴上げで即内定が決まること間違いないだろう.
実にしたたかだ.
就活とはスーツを着る練習から始まるのだ.
明日でもスーツを火であぶったり棒でたたいたりしていい感じのダメージを与えてみようと思う.