祝福する死者が天国の門を叩く――Grateful Dead――

グレイトフルデッド(Grateful Dead)は1965年にカリフォルニア州パロアルトで結成されたバンドである。60年代後半のサンフランシスコ・ベイエリアということもあって、カウンターカルチャーとヒッピームーブメントに深く関係している。当時撮られた写真を見ると、中心的人物のジェリー・ガルシア(Jerry Garcia)がまさにヒッピーといったひげもじゃの格好で映っている。その頃のサンフランシスコ、というと僕はなんといってもリチャード・ブローティガン(Richard Brautigan)を思い出すのだけれど、ここではその話は割愛する。

グレイトフルデッドは長いインストゥルメンタルジャムを特徴とするライブ活動によって、アメリカ国内で常に高い人気を保ってきた。ヒットチャートの上位に食い込んだりすることはほとんどなかったらしいのだが、それでも数多くの「デッドヘッズ」(Deadheads)と呼ばれる熱狂的なファンに支えられて活動を続けてきた(アップルの創始者のスティーヴ・ジョブズもその一人だったらしい)。

ここに載せたのはそのグレイトフルデッドが演奏するボブ・ディラン作詞作曲の”Knockin’ On Heaven’s Door” の動画である。1989年のライヴ。ヴォーカルでリードギター担当のジェリー・ガルシアは46歳である。

歌詞の内容はとても暗い。もともとビリー・ザ・キッドを主人公にした映画のサウンドトラックだったこともあり、銃弾に倒れ、今まさに死んでいこうとする男のことが歌われている。果たして彼が天国に行けるのかどうかは分からないが、少なくとも本人は「天国の扉を叩いているような気分だ」と言っている。四度繰り返されるリフレインが物悲しい雰囲気をじかに聴衆に伝えている。

これを歌っているジェリー・ガルシアはなかなか面白い人だったようで、若い頃から音楽や絵の才能にひいでていたらしい。しかしあまり真面目なタイプではなかったらしく、授業をサボって喧嘩をしたり、友人とマリファナを吸ったり、さらに母親の車を盗んで陸軍に入隊させられたりと――点呼を何度となく欠席した結果、除隊処分となったのだが――ずいぶんいろいろとあったみたいだ。

そんな彼の19歳の頃のエピソードがある。四人の友人と乗っていた車が、時速90マイルのスピード(約144キロ)でガードレールに衝突したのだ。彼は助手席に座っていたが、フロントガラス越しに外に投げ出され、鎖骨を骨折した。あとになってもそのときのことは思い出すことができなかったらしい。残りの三人も当然ひどい怪我を負った。

彼はそのときのことをこう語っている。 “That’s where my life began. Before then I was always living at less than capacity. I was idling. That was the slingshot for the rest of my life. It was like a second chance. Then I got serious”

「そこから私の人生が始まったんだ。それ以前には私は、自分の能力に見合うだけの生き方をしてこなかった。怠けていたんだ。あのことは残りの人生すべてにとっての転換点となった。二度目のチャンスが与えられたような感じだったんだ。それから私は真面目になった」

彼はその後音楽に身を投じ――それは美術をあきらめることを意味していた――数人の仲間とグレイトフルデッドを結成することになる。もっともその後の人生も順風満帆というわけにはいかなかったらしく、薬物依存や、過度の肥満、さらに糖尿病で生死の境をさまよったりと、生涯に亘ってアディクション(中毒)との長い闘いを強いられた。

彼は1995年8月9日、リハビリテーションの施設に入所しているときに、心筋梗塞で亡くなった。53歳だった。その三日後に開かれた葬儀にはボブ・ディランも参加したらしい。

彼の一生は彼のcapacityに見合ったものとなったのだろうか、と僕は思う。これは単なる想像に過ぎないけれど、おそらくもっともっと自分にはできるはずだ、という思いもあったのではないか。もしそうだとすると、このように53歳で亡くなることは、ひどく心残りのある死に方であったに違いない。

ドラッグの問題はアメリカ社会に深く根を下ろしているが、その真の苦しみは味わった本人にしか理解できない種類のものなのかもしれない。一時的な解放。そして永遠に続く負の連鎖。物理的な死だけがそれを終わらせることができる・・・。もっとも僕はそういった歌詞の曲が結構好きで、たとえば次のようなものがある(これは正確にはアルコール中毒の話なのだけれど)。

これはエイミー・ワインハウス(Amy Winehous)という人の “Rehab” という曲。「リハブ」というのは”Rehabilitation”(リハビリテーション)の略である。みんなは私にリハビリに行けっていうけど、私は行きたくないって言ったの・・・。このハスキーな声で――そしてこの顔で――そんなことを言われたらこちらとしては何も言えなくなってしまう。

ちなみに彼女はアルコール中毒が原因で2011年に27歳の若さで亡くなった。

村山亮
1991年宮城県生まれ。好きな都市はボストン。好きな惑星は海王星。好きな海はインド洋です。嫌いなイノシシはイボイノシシで、好きなクジラはシロナガスクジラです。好きな版画家は棟方志功です。どうかよろしくお願いします。

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