魂を売ること

そのコンビニでは魂を売っていた。小さな瓶に入っていて、青く光り輝いていた。隅の方の棚に置かれていたのだけれど、値段シールが何枚も重ねて貼られていた。おそらくはそれだけの回数、値下げしたのだと思う。今は税込で50円だった。...

空白の男

私は名前と顔と、記憶をも失ってしまった。いや、正確に言えばそれらのものは——少なくとも「顔」と「記憶」の一部は——きちんと存在してはいるのだが、私の本来のものではないのだ。私には本能的にそれが分かる。 ある朝起きたとき私...

『方丈記』を読んで

『方丈記』は素晴らしい。本棚にあった岩波文庫版を久し振りに読み返してみた。「ゆく河の流れは絶えずして・・・」。本当に名文だと思う。まさに文章が河の流れとなって、ところどころ渦を巻き、時折水滴を太陽に反射させながら、下流へ...

忘却装置

「忘却装置」というものがあると便利だよな、と私は常々思ってきた。 「忘却装置」というのは要するに、都合の良い記憶を――つまり覚えていると都合の悪い記憶、という意味だが――ピンポイントで消せる装置のことである。たとえばあな...

靴紐たちの世界

毎日毎日毎日毎日・・・たくさんの靴紐(くつひも)たちが、結ばれているのです 雨の日も雪の日も、嵐の日も(もちろん快晴の日にだって)靴紐たちは結ばれているのです 彼らは何を考えているのでしょう? 靴の主(ぬし)のことを考え...

新しい夢

新しい夢を見るために、私は今日目覚めてきたのです 新しい響きを辿るために、私は今意識を保っているのです 昨日嗅いだ、排気ガスの臭いが、まだ記憶の扉を、叩いているのです あなたは、今そこにいて、何を見ているのでしょうか? ...

2023年、新しい年。

 明けましておめでとうございます。2023年です。まさかこんな年がやって来るとは誰が予想できたでしょう? まあみんなできたか・・・。とりあえず生き延びてさえいれば一月(いちがつ)には新しい年がやってきます。それが自然のサ...