『この痛みと悲しみの国で』
Virgil Anderson (バージル・アンダーソン) (1890-1938) 作 “In this country of pain and sorrow” (『この痛みと悲しみの国で』) の翻訳 この痛みと悲しみの...
Virgil Anderson (バージル・アンダーソン) (1890-1938) 作 “In this country of pain and sorrow” (『この痛みと悲しみの国で』) の翻訳 この痛みと悲しみの...
二本の平行線の間に僕はいる 上の線が風で下の線が水だ 僕はその二つの流れのちょうど真ん中にいて ただ移動している 二本の平行線はどこまでいっても交わらないらしい 上の線が風で下の線が水だ 僕はその二本の透明な直線の間にい...
春は匂(にお)やかな風 蠢(うごめ)く虫と それを啄(ついば)む鳥 肌に感じる生温かい空気 地面に広がる クローバー 我々は生きている 梅雨(つゆ)は灰色の空 ナメクジと 濡れたアスファルト 水たまりを踏む 車の音 雨は...
彼は自転車に乗って、一晩中都心に向けて走り続けていた。走り続けていればあれから逃れられるのではないかと思ったからだ。なぜ都心なのかは分からない。目的地なんてどこでもよかったような気もする。しかし走り続ける以上どこかに向か...
彼女はもう長年魔女をやっていて、そのとき大きな鍋の中身を木べらでかき回しているところだった。その中身が何なのかは分からなかったが、辺りにはなかなか良い匂いが漂っていた。 「蝦蟇がまの胆嚢たんのうとか、トカゲ...
そのことに気付いたのは夜のことだった。布団に入ってさあ眠ろうと思った瞬間に、それはどこからともなくやって来た。始め僕はそれを上手く飲み込むことができなかった。あまりにも突拍子もない考えのように思えたからだ。でも時間が経つ...
その日僕は詩を書いてみることにした。詩を書くなんて生まれて初めてのことだ。いや、全く初めてというわけでもないな。子供の頃夏休みの宿題で書かされたことがあった。でもあれは先生から書けと言われて無理矢理書いたものだった。今僕...
その日の夜八時頃、仕事から帰ってマンションの入り口にある郵便受けを開けると、中に二つの眼球が浮かんでいた。正確にはきちんと開けたわけではなくて、ただ中身が入っているかどうか投入口から簡単に確認しただけだったのだが。僕はそ...