私は自由という名の牢獄に閉じ込められている
あなたは疑問に思うかもしれない
自由とは果たして牢獄なのか、と
自由とはむしろ牢獄から出ることではないのか、と
それは正当な疑問だが、私には何の意味もない
なぜならほかの人にとって自由は「解放」だが
私にとって自由とは紛れもない牢獄だからだ
私は今ここにいて、夜空の星を見上げている
周囲には何もない
ただ白い空間が広がっている
空だけが黒い
そしてすぐそこを自由が走り回っている
なあ、と私は言う
少し大人しくしてくれよ、と
でも自由は走り回るのをやめない
私がそんなことを言うと、より勢いを増して走り出すのだ
そんなことをしていると死んじゃうぜ、と自由は言う
身体が腐っちゃうんだよ、と
でも私は動く気になれない
身体がとても重いのだ
これならいっそ木に生まれた方がよかったんじゃないかと思う
そんなことを思っていると、突然自由が立ち止まった
ほんとに木の方がよかったのか、と彼は言う
ほんとうだよ、と私は言う
人間なんかより木の方がずっといい
すると自由はじっと考え込んでいた
そしてまた走り出した
彼は走りながらこう言った
もしあんたが木だったとしても
あんたに鳥は止まらないね
どうして分かる、と私は言う
どうして鳥が止まらないと分かる?
なんでかっていうとさ、と彼は走りながら言う
あんたは今すでに木になっているからだよ
私はそこで気付くのだが、確かに私は木になっていた
一本の、太い木だ
思っているよりもずっと大きい
枝を一杯に広げて、鳥がやって来るのを待っている
と、すぐ上空をたくさんの雀が飛んだ
でも彼らは一匹たりとも下りてこない
何かを警戒しているのだろうか?
中が空洞なんだよ、と自由が言う
あんたの幹の中は空っぽなんだ
鳥はそういう木を嫌うのさ
だっていつ倒れてしまうか分からないじゃないか
そういわれてみれば、確かに胴のあたりがスカスカしている気がする
でもどうして私はこういう木に生まれてしまったのだろう
どうしてほかの木みたいに中身が詰まっていないんだろう?
あんたは寂しさのあまり自分で自分に穴を空けたのさ、と自由が言う
ほら、見てみなよ
見ると、一匹の蛾が私の肌に張り付いて、樹液を吸っていた
しかし次の瞬間それはすぐに死んでしまった
鱗粉を残して
黄色い鱗紛を残して
あんたの穴はどんどん大きくなってる、と自由は言った
そしてあんたの身体を蝕むのさ
あんたの樹液は死だ、と自由は言った
あんたの葉は見せかけに過ぎない
あんたの根は何も吸収しない
そもそもあんたは呼吸すらしていないじゃないか
確かに私はもう呼吸をしていなかった
そして穴はどんどん大きくなっていく
やがてそこに死者がやって来た
ついさっき死んだ、というような死者ではない
もうずっと前から死んでいた死者だ
なにしろ彼は今ではただの骸骨だったのだから
彼は私の根元に来ると、さっきの蛾のように樹液を吸った
チュウチュウと
でも彼は死ななかった
なぜなら彼はすでに死んでいたから
なあおい、と自由は言った
そんなもの舐めておいしいかい?
まあ悪くはないね、と死者は言った
少なくとも昔俺が飲んでいた安酒よりはましさ
あれはひどい味がした、と彼は言った
セメントみたいな味だ
でも結局やめられなかった
最期までね
やがて死者は私の表面に小さな穴を発見する
彼はそこに指を入れたが、すぐにまわりがぼろぼろ崩れて、大きな穴になった
こりゃすげえや、と彼は言った
そこにあった空洞は、私自身より大きなものだった
果たしてそんなことが可能なのかどうかは分からない
空洞が、それを包み込む私より大きいなんて
でもそれは実際にあったことなのだ
死者は好奇心に駆られて中に足を踏み入れた
そこにいたのは不自由だった
不自由は穴の中にうずくまって、どこか遠いところを見ていた
なああんた、と死者は言った
一体何を見ているんだね?
すると不自由は言った
何も見ていない、と
私は「何も見ていない」を見ているのだ、と
こいつは頭がおかしいね、と死者は言った
そして首を振って外に出てきた
もし俺があんたなら、と死者は私に向かって言った
なんとかして彼を助けてやるがね
そしてうずくまっている不自由を指差した
彼はあれでいいのさ、と私は言った
なにもみんながみんな自由になりたいわけじゃない
俺には理解できないな、と自由がまだ走り回りながら言った
(彼は疲れというものを知らないのだ)
自由というのは、こんなに素晴らしいことなのに
いずれにせよ、と死者は立ち去りながら言った
俺はもう行くよ
ここにいてもしょうがないしな
やることがあるんだ
死者が何をやるんだい、と私と自由は同時に訊いた
それは秘密さ、と死者は言った
死者には死者の生活があるんだ
あんたらには分からんよ
あんたらまだちゃんと生きているしな
でも私には確信が持てなかった
果たして私は生きているのだろうか?
そのとき私の中の不自由が立ち上がった
それは突然のことで、私も(そして自由も)予期していなかったことだった
不自由は不自由な割に、不自由なダンスを踊り出した
動きはぎこちなく、ステップはまるで錆びた機械のようだ
それでも彼は踊りをやめなかった
果てしない空洞の中で、彼は踊り続けていた
不自由な踊りを
ぎこちない踊りを
私はただじっとそれを眺めていた
何を言うこともなく
何を思うこともなく
自由もまた立ち止まって
それを眺めていた
そして一度冷やかすようにヒューという音を出した
やるね、彼は、と自由は言った
でも不自由は踊るのをやめなかった
彼はどれだけ経っても上手く踊れなかったが
そんなことは問題ではなかった
とにかく踊り続けることが大事なのだ
やがて自由は飽きてどこかに走り去ってしまった
鳥が一羽飛んできて、私の枝に止まった
メスのカブトムシがやって来て私の樹液を舐めたが、彼女は死ななかった
彼女はカブトムシ語でこう言った
〈まあ、なんてぎこちないダンスだこと!〉
私は、うるさい、黙れ、とは言わなかった
木は辛抱強いのだ
昆虫の言うことなんか気にするな、と私は思った
あんな八本脚のやつらなんか
あんたは踊り続ければいいんだ
そのへたくそなダンスを
やがて穴は広がるのをやめ、縮小し始めた
それはどんどん小さくなっていき、ついに不自由を呑み込んだ
でも私は彼がまだ踊り続けているのを感じている
彼は私の中のどこかにいて
まだあのぎこちないダンスを踊り続けている
カブトムシは飛び去り、新たな鳥がやって来た
自由が戻ってきたが、彼は私のすぐそばを素通りしていった
空洞が埋まったおかげで
それが私だと気付かなかったのだ
風が吹いて、私の枝を揺らせた
何枚かの葉が落ちて、朽ち
大地の元となった
不自由はまだ踊り続けていた
死者は秘密の場所で秘密の行動をしていた
私は木で
呼吸を再開していた
静かに
音もなく
いつまでも
ずっと