君はあの夕空を見たか

君はあの夕空を見たか

夏の高い空間にモクモクと雲が湧き上がって

その奥から太陽が

我々を照らしている

あの光景を見たか?

雲の下には影があり

雲の奥には空気のうずがあり

その下に鳥が飛び

我々がいる

その光景を見たか?

いや、見てはいない

あなたは本当は、そこにある光景を見てなどいないのだ

なぜか

なぜあなたは――そして私は――そこにある光景を見ることができないのか?

それは私たちが孤独ではないから

本当は孤独なのに

孤独ではないをしているからなのだ

時は言うまでもなく

今この瞬間も流れている

あなたが生まれたその時から

時間は滔々とうとうと流れ続けているのだ

響き

流れ

痛み

そして心の味わう苦痛

からの解放

光はその瞬間に生まれ

死ぬ

あなたはその瞬間に生まれ

死ぬ

あらゆる老人が死んでいる

あらゆる若者が死んでいる

あらゆる赤ん坊は生きている

あらゆる鳥は飛んでいる

あらゆる空気はよどんでいる

あらゆる移動は真実である

僕の言葉は・・・言葉に過ぎない

星空が

世界を覆っているというのに

我々は何を見ているのだろう?

我々は

生まれたときは

善のはしくれ

でも死ぬときは

ただの土くれ

皺々しわしわの皮膚に

罪の記憶

死者の隣に

打ち捨てられた家屋

でも

全部は回る

グルグルと

回る

意識は復活し

同時に死ぬ

意識は復活し

同時に死ぬ

我々は塔のまわりを回る

愚か者

グルグルと

いつまでも

回り続ける

時の価値も知らずに

村山亮
1991年宮城県生まれ。好きな都市はボストン。好きな惑星は海王星。好きな海はインド洋です。嫌いなイノシシはイボイノシシで、好きなクジラはシロナガスクジラです。好きな版画家は棟方志功です。どうかよろしくお願いします。

3件のコメント

  1. いつも楽しく拝見させていただいています。普段の光景を見過ごしているかもしれないとこの詩を読みながら思いました。それは私もここ数年考えてきたことです。「風の通り道」を読ませていただきましたが、なかなか面白い作品でした。おそらく純文学を中心に書かれていると思うのですが、村山亮さんのエンターテイメント系の作品も読んでみたいなと思いました。

    1. Hayakawa様、コメントありがとうございます。
      「風の通り道」、だいぶ前に書いた作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。僕はいまだに自分の〈風の通り道〉を確保しようとしてあくせくしているみたいです。出口を閉じてしまえば一瞬で救いがやって来ることを知っていますが・・・もちろん僕は——僕らは——そんな救いなんか欲してはいませんよね。それは罠だからです。もちろん。
      エンターテイメント系の作品は・・・頭の中には構想がちょくちょく浮かんでくるのですが、どうも時間が足りなくて、後倒し後倒しになっているみたいです。「エンターテイメント」だと思って読んでいたら、いつの間にか精神の深い闇の奥に連れ去られていた、というのが僕の理想ですが。どうでしょう。

  2. 確かにエンターテイメント要素のある純文学は私も魅力を感じます。特に村上春樹は私の好きな作家です。村山亮さんの作品を読んでいると魅力的な文章で物語に面白さを感じます。一度エンターテイメントに振り切ったらどうなるのかなと思ったので、コメントさせていただきました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です